では、中国から脱出した企業は、どの国に行けばいいのか。

中国の次は、ベトナムの時代がやってくる ベトナムの街頭には、「1975年4月30日(サイゴン解放、北ベトナム勝利の日)」「勇猛果敢に急進撃だ!」「全勝」などの言葉が躍る看板が設置されている。(写真=時事通信フォト)

いま、日本企業は東南アジアに進出する動きが盛んになっている。ベトナム、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー……。

私が実際に各国を歩いてみたなかでは、ベトナムを一番にお勧めしたい。日本企業の進出先として非常に良い条件がそろっているからだ。

歴史的には、第二次世界大戦以降だけでも、植民地時代の宗主国フランスを破って独立し、軍事介入してきた米国にも勝ち、さらに隣国中国にも勝利した。

いずれも国力が数倍上の相手にひるまずに立ち向かった不屈の精神が素晴らしい。大和魂以上の精神力を感じる。ベトナムは共産主義国ではあるが、経済的には自由化が進んでいて、自由主義陣営ではないかと思えるぐらい、現地の人々とやりとりをしていて違和感がない。

すでにベトナム工場を稼働させているキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長も数ある進出先のなかでもベトナムを高く評価していた。

「職人の賃金が安く、手先が器用で、人としても信用できる。進出した当時は識字率が低く困ったこともあるが、マニュアルを紙芝居のように絵にして説明するとすぐに理解できるようになった。最近は海外留学経験者も増加、従業員の識字率も向上して世界水準の素晴らしい工場になってきた」

会長から直接その話を聞いて、私もこれからはベトナムの時代だと感じた。特に、かつてサイゴンといわれた南部の大都市、ホーチミン周辺はすさまじい勢いで発展している。ホーチミンに隣接するドンナイ省は、漆芸で有名な地域。日本の漆器を思い出してもらえばわかるが、漆というのは難しい素材で、卓越した職人技がなければ加工できない。こうした職人の伝統がある地域に、日本企業が中心となって工業団地を開発、ベトナム進出が加速したようだ。

九州で有名な冷凍たこやきメーカー「八ちゃん堂」は、ホーチミン郊外に40ヘクタールの農地を買って、ナス農園を展開している。現在350人の従業員がいるが、日本人はわずか1人で、管理職も含め、あとはすべてベトナム人で経営しているという。日本の厳しい基準でナスを栽培し、現地の工場で1本ずつ焼いたナスを急速冷凍し日本に出荷。食品を扱っているが、信用できる現地スタッフのおかげで中国のような衛生上の心配は一切必要ないという。今後は冷凍マンゴーも展開するというので楽しみだ。