レジェンドの弱点はハト?

2つ目は「女子サッカー」のためである。男子サッカーと比べ、女子の環境は厳しい。小学生時代は男女一緒にやっても、中学生になると女子のプレーの場が少なくなる。澤は12歳で読売ベレーザ入りし、20歳でアメリカのリーグに移籍した。

チャレンジの連続だった。前回のW杯優勝で女子サッカーの知名度、なでしこリーグの人気をイッキに押し上げ、プロの選手も増えてきた。環境が少しずつ変わった。

「すそ野の拡大・改善」「未来ある子どもたちのために」との思いが根強い。W杯連覇をすれば、女子サッカーの人気を加速させることができる。さらに環境を改善させることにもつながる。

3つ目が、自身が「納得」したいからである。「根性の塊」のような風貌と、全身を貫く活力、最後まであきらめない執着心は相変わらずだが、からだを張った献身プレーが多くなった。「チームの結束力」をよく口にするようにもなった。

そこには人間力の成長がある。幾多の修羅場をくぐり抜けてきたからか、澤は懐が深くなった。余談を言えば、今年2月、テレビのバラエティー番組でたまたま一緒になったことがある。とくに威張りも気取りもせず、なんともまあ自然体だった。

たしか澤は「PKとハトが死ぬほど苦手」と打ち明けていた。PK戦でミスして以来、10年間ほど、PKを蹴っていないそうだ。さらにハトが飛び立つときの羽のバタバタという動きがコワく、鳥全体が苦手なのだと顔をひきつらせながら説明した。

もちろん、ピッチに立てば、人間が変わる。澤はこのW杯をサッカー人生の集大成にしようと考えている。最後はメンタル勝負。モットーが『夢は見るものではなく叶えるもの』。“レジェンド”澤がW杯連覇に走る。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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