今年は大きな分岐点という理由

かつてトヨタにも「チャレンジ」という言葉をよく口にした経営者がいた。それは奥田碩元社長だ。1995年8月に社長に就任するや否や、閉塞感に陥っていた社内に向かって「何もしないことが一番悪いことだ」と新しいことにチャレンジすることを訴え、社内改革を進めた。その結果、社内の雰囲気は徐々に変わり、会社も大きく発展した。

今回はその時以上に会社が発展する可能性があると言っていいかもしれない。なにしろ、創業家社長ということで、求心力があり、社員の間で豊田社長を盛り立てようという意識も強いからだ。

その一つとも言えるのが「もっといいクルマをつくろうよ」ということだ。これは豊田社長が社長就任以来言っていることで、今や社内の隅々にまで浸透している。その結果、開発部門だけでなく、さまざまな部署でいいクルマづくりについて考えるようになり、いろいろな提案が出るようになったという。

そして、今年後半にはその思いを基本にしたTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)という新しい開発手法を用いた第一弾のクルマが投入される。「20年頃には世界の半分がTNGA車に切り替わる」と豊田社長。

一方、製造現場である工場では、「もっといい工場づくり」が着々と進められてきた。各工程でさまざまな改革が行われ、その数は数え切れないほどだそうだが、端的に言うと、工場新設に必要な初期投資を4割減らすことができるという。今後建設されるメキシコ新工場や中国新ラインでは、「もっといい工場づくり」で培った改革がふんだんに活かされる予定だ。

トヨタは2015年度の営業利益を2兆8000億円(前年度比1.8%増)と見込んでいるが、TNGAを活かした生産・販売の拡大が想定を上回れば、3兆円台も夢ではないだろう。しかし、豊田社長は「今年は持続的成長に向けて踏み出すのか、これまで積み重ねた努力にもかかわらず元に戻るのか、大きな分岐点」と一切浮かれた様子を見せない。その辺りがトヨタの強さの秘密と言えるかもしれない。

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