結果的に、ISは今、相当窮地に追い込まれている、と考えるほうが妥当であろう。一時期、パネッタ前米国防長官は「ISとの戦いは30年戦争」と語り、オバマ米大統領も「相当長期にわたるだろう」と語っていたが、そう時間はかからないのではないか。少なくとも、シリアやイラクで猛威を振るう時期は、この先長くはないと思われる(筆者ブログ「中東TODAY http://blog.canpan.info/jig/」参照)。

ISは、イラクのバグダッドで誕生した当初はアルカーイダの支部という位置付けだった。それがシリアに渡り、蛮勇を振るい、たちまちにして一大勢力に成長。今ではシリアの北部のラッカ市を彼らの国「イスラム国家」の首都とし、イラクの北部と併せると、イギリスの国土よりも広大なエリアを支配していると言われている。

しかし筆者の考えでは、ISのイラクとシリアにおける“役割”はすでに終わっている。イラクにおいては、イランと深い関係にあったマリキー首相を首相の座から引きずり下ろし、イラクにおけるクルドの立場を強化することに繋がった。シリアにおいては、バッシャール・アサド体制の打倒ではなくシリアの北部を分離させた、とおのおの考えている。

実際、マリキー首相は、ISがイラクで暴れまくった結果、「マリキーでは治安の維持は無理」というイラク各派の意見で首相の座から下ろされたし、シリアでは同国北部のコバニ市(アイン・アラブ)の戦いで、イラク・クルドの自治政府所属のペシュメルガ軍の援軍を得たクルド側がISに勝利した。その結果、シリア北部のクルド人たちは、この地域で自治権を獲得することを考え始めており、将来的にはシリア・クルド自治区になることを希望している。

それだけではない、シリアのクルド人たちはイラクのクルド人、トルコのクルド人たちとの間で「緩やかな連邦国家を形成しよう」と考え始めているのだ。シリアのクルド組織PYDは、トルコのPKK(クルド労働者党)と深い関係にあるし、イラクのクルドとはペシュメルガ軍を派兵してもらったこともあり、深い絆ができているのだ。従って、クルド人同士の間だけで考えれば、緩やかな連邦はそう困難でもないということになろう(この結果、ペルシャ湾海底にある膨大なガスが、イラク・シリアを通じてパイプラインで運ばれ、地中海から欧米に向かうことが可能になったのだ)