AKB48の高橋みなみが「努力は必ず報われる」と発言し、世間の反応は賛否両論分かれることとなった。彼女が言うように、努力しさえすれば人は報われるのだろうか。

フロリダ州立大学のアンダース・エリクソン教授は、人が卓越した技能を獲得するためのプロセスを研究している。チェスの達人、トップアスリート、そしてプロのミュージシャン、彼らのトレーニングとパフォーマンスを分析することで、一流になるためには何が必要かということが明らかになってきた。それは生まれ持った天賦の才ではない。上達のためにどれほど研鑽を積んだか、そしてその中身が重要なのだという。

ビジネスにも転用可能だという一流になるためのトレーニングとは何か。経営者や役員になれる人と、課長止まりの人の間にはどのような差があるのか。各界のトップだけが続けてきた秘密のトレーニングについてエリクソン教授に話を聞いた。

毎週コースに出ても、ゴルフが上達しない理由

人気著作家であるマルコム・グラッドウェルはその著書『天才!』の中で、偉大な成功を収めた人々は1万時間以上のトレーニングを積んでいると指摘した。しかし、プロの音楽家になろうと思うと1万時間ではまったくたりず、2万5000時間が必要となる。分野によって必要なトレーニング時間に違いはあるが、1万時間というのは最低ラインだ。ただし、1万時間かければそれでプロになれるというわけではない。時間をかけさえすればいいと勘違いする人に対して、私は練習の中身と質を見直すべきだとアドバイスしたい。というのも、いくら時間をかけたところで向上につながらない練習があるからだ。

例えばゴルフが好きなサラリーマンは多いが、毎週のようにコースに出たとしても一定のレベル以上に上達することはない。なぜかというと、ある分野で優れた成績を収める熟達者になるためには、デリバレット・プラクティス、つまり計画的に、探究しながら練習することが必要だからだ。

クイズ●チェスが上達するのはどれ?

このことはビジネスにおいても同様だ。本題に入る前に、チェスに関する興味深い研究を紹介したい。チェスが上達するために何が必要かという問いに3択で答えてもらう。選択肢は、チェスの試合に出ること、試合以外で友人などとプレーすること、チェスの盤面の分析を1人で行うこと。多くの人はチェスの試合に出ることが上達の道だと答えたが、実際は違った。それぞれの方法で訓練を行った人々のチェスの成績と比較すると、試合に参加することと成績には相関が見られず、試合以外でチェスをすることは上達を阻害し、盤面の分析を行うことが成績を向上させるという結果が出たのだ。