治療薬やワクチンはなく、致死率が高い

行楽シーズン真っ盛り。山登りやキャンプには絶好の季節になってきた。山や草むらが多いところへ行くときに注意したいのが、増えているマダニ感染症だ。マダニ感染症は、特定のウイルスや細菌を持つマダニに咬まれると発症する。

最も怖いのは、2013年1月に国内で1例目が確認された重症熱性血小板減少症(SFTS)だ。2011年に中国で発見された新しい病気で、SFTSのウイルスを持ったマダニが媒介する。感染すると6~14日間の潜伏期間を経て発熱、下痢、腹痛、嘔吐(おうと)、筋肉痛、意識障害、失語、皮下出血といった症状が出る。名前の通り、血液を固める作用のある血小板と白血球のが減少するのが特徴だ。感染症発生動向調査によると、今年4月8日までに愛媛県、宮崎県、高知県、鹿児島県、徳島県など西日本の15県で110人が発症している。

約2年で110人なら、それほど患者数は多くないと思う人もいるかもしれない。しかし怖いのは、現時点ではこのウイルスに対する治療薬やワクチンがないために、そのうち32人が死亡し、致死率が29.1%と非常に高いことだ。発症者は、気温が上昇してマダニの活動が活発になる5月から8月に多い。患者の年齢は60歳以上の高齢者が大多数だが、20代、30代にも感染例が出ている。今のところ東日本や北日本では発症の報告はないものの、栃木県、群馬県、山梨県、長野県、北海道などでもSFTS ウイルスの遺伝子を持ったマダニが見つかっている。

ダニが媒介する感染症にはほかにも日本紅斑熱、ライム病などがある。日本紅斑熱は、マダニに寄生する細菌「リケッチア・ジャポニカ」が体内に侵入すると2~8日の潜伏期間を経て感染する。抗菌薬で治療できるが、対処が遅れて全身の血管内で血液が固まる播種性血管内凝固症候群や多臓器不全が起こると死亡するケースがある。今年4月には、山菜採りをしていたときにマダニに咬まれた香川県の男性がこの病気を発症して死亡した。やはり西日本での発症が多いが、患者は東日本にも広がっている。昨年1年間の感染報告数は240人で、感染症予防法が施行され報告が義務付けられた1999年以降最多となった。