老親に遺言状を書かせる――まさに縁起でもないこのミッションには、切羽詰まった親族たちが編み出した奇想天外な“技”があるという。

「無理やり」は趣旨に合わない

人生において、「縁起でもない」という言い回しがこれほどフィットする場面もそうはあるまい。遺言書である。老親に面と向かって「書いてくれ」と切り出すことじたい勇気の要ること。拒絶されるのはほぼ目に見えているし、頑として応じない親に無理強いして関係がこじれては、さらに厄介だ。

「遺言書は書いてもらうというより、相続人が公正証書遺言と必要書類を(弁護士等に頼む形で)事実上用意しておいて、『おじいちゃん、一緒に公証役場に行こうよ』と勧めるんです。一度作った遺言書は修正できないと思っている人も多いので、『遺言書は何回でも作り直せるよ』が説得の文句として効果的でしょう」

そうアドバイスする城南中央法律事務所の野澤隆弁護士は、「会社を引き継ぐための事業承継制度なども含めて、生前贈与を積極的に行うべきです」と強調する。年間110万円まで贈与税がかからないことは、すでによく知られている。

「しかし、日本ではまだまだ徹底されていないですね。頭では得だとわかっていても、人はみずからの財産を手放そうとしないものです」(同)

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(上)親は「遺言書」を用意するつもりはない (下)子は「遺言書」を用意してほしい

アンケート結果にも、人間のそんな心理が如実に表れている(図を参照)。実際に遺言書を用意している60代以上は、全体でも男女別でもほんの数%。「用意したいと思っている」を足してもやっと2割程度だ。受け渡すほどの資産を持たぬ人がいることを差し引いても、「用意するつもりはない」が3割以上という結果が、自分の財産に対する老親の執着心の強さを物語る。

「今の法律はおかしい。介護と葬儀と墓代の負担分が度外視されているのに、遺産は均等に分けられる」――そう語るのは、主に企業の危機管理のコンサルティングを行うA氏だ。オーナー経営者を中心に常時20社と顧問契約を結び、これまで遺される社員や事業継続のため、社長に遺言書を書かせてほしいという依頼も多く受けてきた。今回、匿名を条件に取材に応じた。