「現行の法制度では、親の面倒を見ない人ばかりが美味しい思いをし、長男・長女ばかりが痛い目を見ることになる。相続は誰もが納得いく方法でなければいけないはずです」(A氏)

ただでさえ揉める要素が十二分にある遺産相続。A氏が「遺言書は絶対に書かなきゃダメ」と繰り返すのは当然だ。かといって、嫌がる親に無理やり書かせるのは「遺言書の制度の趣旨に合わない」(某税理士)。そこで、親の意思そのものを何としてでも「書く」方向へと強引に誘導してまうケースが散見されるという。

「本来なら、自分がいつか死ぬことを当然の前提として、遺される人たちのために遺書を書くべきなのです。それを自分が死ぬこと、引退することを考えたくないばかりに、先延ばしにしようとする。社長が遺言書を書かぬまま認知症になれば、早晩会社が傾くのは容易に想像できます。そこで困った家族や社員が強硬手段に出るのです」

一瞬だけ、猫を家の中に放つ

現場では一体何が起きているのか。A氏は実際に詳細なヒアリングをしたケースとして2つの具体的な事例を本誌に語った。遺書を書きたくない親をP氏、書かせたい家族をQ氏とする。

まず、第1のケース。

Qさんが、家の中に猫を放つ。ガサゴソと音がするから、Pさんは当然びっくりして「誰かいる!」と騒ぐ。そこでQさんは「え? 誰もいないじゃん」と、トボけるのだという。

猫をほんの一瞬、家の中に入れて物音をさせ、後は外に出す。当初、親は当惑する。しかしこれが繰り返されることで、ふと「俺ももうトシかな?」と悟り、ひいては「そろそろ遺言書でも書いておかにゃ」と思いを巡らすようになった、というのだ。

ここまでやっていいものかと首を傾げたくもなるが、どうやら本当らしい。

「Qさんはさらに周到に準備をしていた。例えば飼い猫だと居ついてしまうし情も移るので、餌付けした野良猫を選んだそうです。餌付けをすれば、そのうち勝手に家に入ってくるようになります。猫が映らない高さにビデオカメラを仕掛けておいて、後で『ほら、何も映ってないでしょう』という証拠にも使いました」(A氏)