──交渉がともすると敵対的な性質を帯びることを考えると、企業幹部に勧められる新しいアプローチはどのようなものになるでしょう。

私は今、ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトの心理学者、ダン・シャピロと共同で、交渉中の感情の扱い方について本を書いている。たいていの人が交渉では感情的になってはいけないと言う。しかし人間は、いつもなんらかの考えを持っているように、いつもなんらかの感情を抱いているものだ。恐怖や怒り、憎しみのように、建設的な交渉を妨げる強い負の感情もある。交渉を行う人間は、自分の感情を把握するとともに、交渉相手の行動から相手の感情を読み取る努力をすべきだと思う。

──相手の建設的な感情を引き出すことについてはどうお考えでしょう。

まず覚えておくべきは、相手は自分を理解してもらえたと感じることを望んでいるということだ。彼らは、自分のものの見方や自分がどれだけ熱心に働いてきたかを、われわれに知ってもらいたいと思っている。自分の価値を認めてもらいたいわけだ。「ありがとう」の一言で十分ということはまずないだろう。

自分の価値が認められたと感じるために、相手はわれわれに3つのことを求めている。

第1に、自分を理解してもらいたいと思っている。第2に、われわれが確かに理解したということを、彼らに伝えることによって明示してもらいたいと思っている。そして第3に、自分の自尊心が高められるような形でそうしてもらいたいと思っている。これに応えるために、われわれは自分と異なる考えや見方や行動に価値を認めなくてはいけないこともあるだろう。

相手の価値を認めていることをなんらかの形で伝えることは、相手の協力的な感情を引き出すための第1歩になる。交渉相手を、その専門知識ゆえに尊敬に値し、きわめて重要な役割を担っており、侵してはならない自由を持つ仲間として遇すれば、相手の感情を害するおそれはなく、おそらく協力的な感情を引き出せるだろう。

──交渉相手に自分の感情について語らせることは重要でしょうか。

相手に感情について語らせることは重要とは思わないが、自分の利益について語らせることは重要だ。双方の利益を満たす結果を生み出したいなら、われわれはその利益が何なのかを知る必要がある。直接そうは言わないにしても、交渉を行う人間は誰しも自分の「顔が立つ」結果にしたいと思っている。この条件を呑んだのは、かくかくしかじかのもっともな理由があったからだと、自分自身にも他人にも正当性を説明できるようにしておきたいわけだ。

──どうすれば相手の協力的な感情を高められるのでしょう。

最も効果的なのは、交渉を敵対的なプロセスから、交渉を行っている者同士が互いに相手を問題解決のために協力している仲間とみなすようなプロセスに変える行動だ。

向き合って座るのではなく隣り合わせに座るのも一案だろう。一方が他方に助言を求めるのも単純だが効果的な方法の1つだろう。

(翻訳=ディプロマット)