時短だからといって、役割を制限しない

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
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【若新】この前Mくんと話したのですが、仕事内容がステップアップしたことについてすごく喜んでいました。世間では一般的に、フルタイムの正社員じゃないと職務内容が順当にステップアップしていかないと思われがちですが、このままいけば、時短勤務でマネージャー職といったケースもうまれそうですね。

「ゆるい就職」について、若いうちは時短の働き方でもいいけれど、そのままではスキルアップしないとか、給料が上がらず将来性がない、といった批判がよくあります。しかし、週5日勤務の正社員が年収800万円なら、週3日勤務で年収500万円の正社員というのがあってもいいのに、スタイルが違うだけでキャリアアップできないのはおかしな話です。フルタイムの人にしか重要な仕事は任せられない、という思い込みが根強い気がします。

【佐々木】フルタイムじゃないからといって仕事を制限するのはナンセンスだと僕も思います。どんな働き方をしている人であれ、「期待に制約を設けない」ことが大事ではないでしょうか。期待に応えられる人もいれば、応えられない人もいるかもしれませんが、それは契約や勤務の形には関係ないし、そもそも期待しない限り、それ以上育ちませんからね。

【若新】期待することからはじまるんですよね。若者は敏感で、自分は期待されているのか、尊重されているのかを感じとる能力が極めて高いと思います。

【佐々木】期待して任せれば、彼らは自分たちでどんどん学んで成長していきます。僕らの会社にはそのカルチャーが強いと思います。うちの会社の第1号社員と2号社員の例を紹介すると、1号社員は東大の法学部を出て、司法試験に3回失敗し、31歳まで無職だった男性です。僕が起業したのを聞きつけた共通の友人から、「面倒をみてあげてくれないか」と相談されたのが採用のきっかけです。最初は雑用をやってもらっていましたが、そのうち自分でプログラミングを勉強して、いつの間にかエンジニアになり、今ではエンジニアチームのマネジメントを担当しています。

2号社員は、大学在学中には就職活動をせずに、卒業直後に就職の相談にやって来ました。採用したものの、何か特技やスキルがあるわけでもありませんでした。ところが、入社初日にマーケティングに関する企画案を20くらい持ってきて、「こうやって売ったらいいんじゃないですか?」と。「どうぞやってみてください」と仕事を任せていくうちに成果が出て、今ではマーケティングチームのリーダーです。

【若新】お二人のケースを聞いて感じるのは、一昔前までは給料やポジションが上がることが働く人にとっての重要な報酬でしたが、今はそうでもないということです。もちろん、給料もポジションも大事ではありますが、それ以上に、自分の価値観やスタイルを理解してもらえて、日常的な経験を通じて新しいことに向かって変化したり、柔軟に広がったりすることに大きな充実感がある。

これからは、働き方の柔軟性が大きな報酬の一つになると思います。また働き手にとっても、どれだけ変化に対応できたかという柔軟性が、仕事の評価基準として重視されるようになっていくのだと思います。

(後編につづく)

(前田はるみ=構成)
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