聞こえてくるのは戦争の足音
やはり、中国にとって、基軸通貨への第一歩として、最優先課題は人民元のSDR編入のようだ。10年11月に編入を求めた際は認められなかったが、今年10月のIMF年次総会でも、その席でまた人民元のSDR入りが議論される見込みで、そのためにもAIIBを成功させたいところなのだろう。現在の弱体化したオバマ政権が、突っぱねることができるのか。ある意味で世界経済は岐路に立たされているといえる。
また、AIIBが取引を開始した場合、もっとも利害が激しくぶつかると考えられるのが、「アジア開発銀行(ADB)」だ。アジア太平洋地域の貧困対策の一環として、途上国の開発支援を目的とした国際金融機関で67カ国・地域が参加している。最大の出資国として日本を中心に運営されてきた。歴代総裁はすべて日本人だが、本部はフィリピンのマニラに置かれている。中国ももちろん加盟国だが、日米を中心に運営される中で、出資比率の増加も見送られ、発言権が向上しないことに不満を募らせ、対抗措置としてAIIBを設立したという見方もある。
現在、AIIBの体制をめぐって疑問視されているのが、融資審査能力が備わっているか、公平なガバナンスが可能かなどの問題だ。おそらく後発のAIIBは、ADBよりも安い金利で参入してくるはずだが、審査能力に問題があれば、ただでさえギリギリの返済能力しか持たない借り入れ国で混乱が起きることは間違いない。ADBへの返済が後回しにされるようなことになれば、日本にも損害が出てしまう。
実は、民主党政権時代に、日本は一度中国の金融に関する攻撃に押し込まれている。12年、当時の野田佳彦首相は、円と人民元の直接取引を認めたことで、人民元の国際化に一役買ってしまったのだ。
別に、中国が国際的に見てもまともな民主国家で、日本に対して友好的な関係を構築しようとしているならば、人民元が国際基軸通貨になっても大した問題にはならない。
中国は、時の指導部が言い出したことは絶対という国だ。これまで、米ドルが基軸通貨として都合がよかったのは、米国一国だけでも巨大な経済圏であり、米国の国益追求は他国の経済などにある程度の敬意を持った形で進められてきた。米国がルール違反をしてまで自国の利益のみを追求しようという意識は薄かったはずだ。だから、他国は安心して基軸通貨として米ドルを使えたのだ。
AIIBの成功は、アメリカ一極体制の終焉と、東アジアの支配権を中国が確立することを意味する。そうなれば、日本は包囲網をつくられて、先の大戦のごとく追い詰められていく。私には最近のニュースの一つ一つが軍靴の音に聞こえる。