世界共通言語「英語」の使い方
日本は国民皆保険で、前述した「高額療養費制度」があるので、手術を受けたときの実質的な自己負担額はそれほど高くないかもしれませんが、国民医療費全体が上がれば、それだけ健康保険や国民健康保険の保険料、税金も上がり、結果的に患者や国民の負担が大きくなります。たくさんお金を払ってでも、最新の機器を使った医療を希望したいという人はそちらを選べばいいですが、それをすべての患者に押し付けるべきではありません。
年金生活をしながら治療を受ける高齢者が多いわけですから、僕は、ナラヤナ・ヘルスケアが実践しているように、日本でも低コストで科学的根拠にのっとったスタンダードな治療を提供することを主軸にすべきだと思います。病院のため、医師のためではなく、最終的には、患者、国民、国のためという考え方で効率化を図り、大がかりでコストのかかる手術ロボットなど使わずに、大多数の心臓手術は低コストで完遂させて、付加価値を求める一部の人たちへの医療はお金を出せば選択できるようにすればよいのではないでしょうか。
それから、もう一つ、インドに学ぶべきだと思ったのは世界共通言語としての英語の使い方です。一般的に、日本人は、2人で会話していた時に、例えば留学生が入ってきてもそのまま日本語で話し続けると思います。ところがインドの人は、現地の言葉が分からない人が入ってきた瞬間、全員が伝達言語としての英語に切り替えて話し始めるのです。インドには、イギリスの植民地だった過去や、国が広くて地方が違ったら言葉が通じないなど、共通言語としての英語が必要だという理由はもちろんありますが、2020年には東京オリンピックが開催されるわけですし、ぜひ日本人も見習うべきです。
日本の良さを伝えながら国際的に飛躍していくには、小さいうちから、下手でもいいからどんどん英語を使って、日本に来た外国人が困らないようにしていくような英語教育が必要ではないでしょうか。文法の問題があっても伝達を優先することが大切という事です。日本でもJK(女子高生)言葉なんていうのは我々が理解できない文法ですからね。病院の中でも、今後、旅行者など外国人に対する医療受け入れ態勢の整備を進めていきますが、同時に、公用伝達言語として英語を使うようにしていかなければと思いました。
今後も、ナラヤナ・ヘルスケアの医師たちとは密に連絡を取り合い、お互いにいいところを吸収していければと考えています。
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。