――社内の他部署とのコミュニケーションがうまくいきません。

まずはお互いが、どんなミッションのもとで、仕事をしているのか、状況をシェアすることが大切です。

例えば社長から経理部門は「経費を2割削減しろ」と言われている一方、営業部門は「1割業績を伸ばせ」と言われているとしましょう。こういうことは実際によくあります。会社全体では「経費を2割減らし、業績を1割伸ばす」わけですから、かなり知恵を絞らないといけません。

営業部門の人が「売り上げを1割伸ばさなければいけないのに、経費削減を迫る経理は許せない!」と思っていても、経理部門の経費2割削減の目標を知ったら、「彼らも大変だな」となる。

――なるほど。お互いを理解したら、次はどうすべきでしょうか。

話を持っていく際に、「誰に一番最初に話をするのがスムーズか」を見極めることです。ここでボタンを掛け違えると、話が進まなくなります。他部署の親しい人などに、「こういうことを話したいけれども、最初に誰に話したらいい?」などと相談するのがいいと思います。僕も昔、渉外の仕事をやっていたときは、よく知り合いのツテをたどって、事前に相手の内情を探りに行ったものです。

そうすると「あのトップはあの課長の言うことは何でも聞くから」とか、「先に部長にインプットしておいたほうがうまくいくよ」とか教えてくれる。人間とは不思議なもので、A君はB君に強く、B君はC君に強い。でもA君はC君に弱いといった、会社の組織図には表れない力関係があったりするでしょう。人間社会は複雑なので、その関係性を事前に押さえておくことはとても大事です。

――相手が決まったら、どうやって話を持ち込めばいいですか?

大事なのは、タイミング。相手の状況をよく観察して、機嫌がよさそうなときに持ち込むべきです。相手に聞く気がありそうなときに話すのです。

考え方としては、釣りと同じです。世界最高のエサを使っても、鯛がお腹いっぱいのときにキャストしたら釣れません。普通の餌でもお腹が空いていて何でも食べたいという鯛なら釣れる。男女関係も同じです。相手にその気がなかったらだめ。うまくいかないときは、相手の気分をよく観察せずに、自分の都合で動いている場合がほとんどです。

――それでもダメだったら?

相手が引っかかっている原因は何で、どうすれば動いてくれるかを考えましょう。歴史上、そういったことが天才的にうまかったのは、豊臣秀吉です。彼は暗殺を恐れて挨拶に来ない徳川家康を動かすため、妹の朝日姫を家康の嫁にやり、彼女への見舞いと称して母の大政所を家康の元に送りました。そこまでして家康が上洛せざるをえないよう仕向けたのです。

Answer:他部署の「事情」と、「キーパーソン」と、「タイミング」を考えましょう。

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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