感情を爆発させるのはお客様を守るときだけ

確かに、怒りのあまり「プッツン」となるときはあります。それは、お客様を守らなければいけないと思ったときだけです。お客様に対して理不尽なことがあれば、怒り狂ったように、断固として戦います。しかし、自分の気持ちやエゴのために、感情を爆発させるということはありません。

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失敗続きだった大型買収の歴史

しかし、その結果はすべて失敗でした。コムデックス、ジフ・デービス、キングストン、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、日本テレコム。いずれも、うまく融合させることができずに失敗していました。日本テレコムを買収したときも、2つの異なった組織や企業カルチャーを一体化させてシナジーを生むことができませんでした。

100%の買収をしたにもかかわらず、いつまでたっても間接話法のようなやりとりしかできない。どこかに遠慮がある。だからソフトバンクのカルチャーも伝えられなかった。そうした「距離感」をつかむことができなかったために、シナジーを生むまでにひどく時間がかかってしまったのです。

それまでの苦い経験を踏まえて、ボーダフォンの買収時には、A案ではなくB案を選びました。つまり相手先に合わせるのではなく、僕たちソフトバンクのやり方にガラッと変えてもらうことにしたのです。

財務リスクはなくても道義的責任は伴う

何しろ1兆7500億円の現金を使った買収です。これまでの買収や投資とは桁違いです。絶対にやり損なうわけにはいきません。最悪の場合、買収合併後に倒産するという無様な姿をさらすことになるかもしれない。しくじれば、ソフトバンクグループ全体を崩壊させかねない。それだけに、性根を据えて、体を張ってやらなければならないと思っていました。

財務的な仕組みとしては、仮にソフトバンクモバイルが倒産しても、ソフトバンク本体には財務リスクはありません。ボーダフォン買収時にソフトバンクが出資した資本金は2000億円で、それ以外には債務保証をしていません。それでも実質的には、経営者としての道義的責任があります。モバイル事業が倒れそうになれば、とことんまで救いにいかなければいけない。長年、経営をしてきた僕にとっても最大の勝負。そんな背水の陣でした。