50時間で全滅。免疫も活性化

図を拡大
ウイルスでがん細胞を破壊する

「G47Δ」の最大の特徴は「第三世代」という点である。「単純ヘルペスウイルスI型」には80以上の遺伝子があるが、そのうち3つの遺伝子を人工的に組み換えている。ウイルスの場合、組み換える遺伝子が増えるほど病気を起こす力は落ちる。第一世代は1つ、第二世代は2つの遺伝子を組み換えることで、病気を起こす力をひと世代ごとに1000倍くらいずつ落としている。

問題は、病気を起こす力を落とすと、一般にがん細胞を殺す力も落ちてしまうことだ。G47Δは、3つめの遺伝子組み換えを緻密に設計し、格段に安全にした一方で、がん細胞を殺す力も向上させた。つまり正常細胞とがん細胞でのウイルスの増え方の差が大幅に開いた。そのため、副作用を出さずにより多い量のウイルスを投与できる。

藤堂教授らの実験によると、ヒトのがん細胞を取り出し、その30分の1の細胞にG47Δを感染させると、50時間でがん細胞が全滅した。さらに動物実験ではがん消失後に抗がん免疫が活性化していることも確認されている。副作用も、免疫反応による発熱や局所の腫れなど軽いものにとどまると思われる。

2009年11月にG47Δを使って、厚生労働省の承認を得た臨床試験がスタートした。「再発膠芽腫(脳腫瘍のひとつ)」を対象とした試験で、頭部に小さな孔を開けてG47Δを注射器で直接、腫瘍に注入する。試験中のため詳細は明かされていないが、ある参加者はG47Δの治療を受けて3年を過ぎた時点でも元気に過ごしているという。

再発膠芽腫の平均余命は3~9カ月である事実を考えると、G47Δへの期待は大きい。再発した前立腺がんを対象とした臨床試験も13年5月より始まった。

藤堂教授は「早ければ3年、遅くとも5年以内に薬事承認へ漕ぎ着けたい」という。