理念を無意識に実践できなくては

こうした仕組みをはじめとして、同社では理念浸透のための取り組みをさまざまな形で行っているが、インタビューで金子社長は「まだまだだ」とコメントしていた。社長自身が目指す基準が高く、またその評価の対象がまず自分自身に向けられているのが印象的だ。同社で理念経営が徹底されている最大の理由がここにある。つまり同社の理念は従業員に向けて浸透させるものである以前にトップ自身が自ら追求すべき理想なのだ。

先代から引き継いだホテルを二代目として経営していた頃から考えていた個人の想いを、組織として掲げるに相応しいものとして昇華させたのがアイ・ケイ・ケイの理念となった。それだけに一言一句に個人の想いが色濃く反映されているものであり、まず自分が体現したいと強く思っている。

金子社長の考える経営の目的は、理念の実践=人間的成長だ。一部上場企業のトップとなった今でも贅沢な生活とは無縁だ。私財を投じ、若くして逝去した兄の名をつけた「人志(ひとし)奨学基金」を設立し、経済的理由で修学困難な高校生の支援活動もしている。一方、理念に反する姿勢の社員の指導では妥協しない。自分の成績さえよければという利己的な人間は評価しない。「自分は何か誇れるものとして人と理念を遺したい」というコメントの通り、組織的に目指すことの実現に向けては並はずれた意欲を持ったリーダーなのだ。

ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージは、著書『ミッション・リーダーシップ−企業の持続的成長を図る』(梅津祐良訳、生産性出版、2004年)の中で、本物のリーダーが備えるべき5つの資質として、

・自らの目的をしっかり理解している
・しっかりした価値観に基づいて行動する
・真心をこめてリードする
・しっかりした人間関係を築く
・しっかり自己を律する

を挙げている。金子社長の信奉する経営哲学は松下幸之助氏や稲盛和夫氏から学んだものとのことだが、洋の東西を超えて、相通じるものがあると言えそうだ。