合わない人は引き留めない

金子和斗志(かねこ・かつし)●アイ・ケイ・ケイ社長。1952年、佐賀県伊万里市生まれ。佐賀県立伊万里高校を卒業後、大手スーパーなどを経て家業のホテル業を継ぐ。1995年にアイケイケイを設立して現職。2010年大証JASDAQ市場に上場。12年、東証二部に鞍替えし、13年に東証一部指定。著書として『サービスの精神はありがとうから生まれる』がある。  アイ・ケイ・ケイ>> https://www.ikk-grp.jp/

高いESは、同社の人事の仕組みの賜物でもある。前々回も触れた通り、彼らの戦い方に整合した仕組みが理念経営を支えているのだ。すなわち、顧客から人生の一大イベントであるウェディングを任せたいと思ってもらえるよう、あらゆる顧客接点で細やかな気遣いができるホスピタリティにあふれる人財を採用、育成する。その中からチームの総合力で満足度の高いサービスを実現できるリーダーを抜擢し、マネジメント力を鍛え、新規出店拠点を任せていく。とりわけ最も注力しているのが採用だ。

同社の採用は人物重視だ。適性検査と複数回の面談を繰り返す中で、裏表のない素直な人物かを見極める。これが「お客さまの感動のために」という理念を受け入れ、顧客を含む周囲の人々と信頼関係を築き、さまざまな工夫を重ね、サービス革新に取り組めるかどうかの大前提なのだ。毎年約2000名の応募者の中から60〜70人を採用している。それだけのプロセスを経て入社しているだけに、この人と一緒に働きたいと思えるような魅力的な社員が揃っており、それを理由に就職を希望する人も多い。

実際、就職ランキングでアイ・ケイ・ケイは、九州でトップ5に入る人気企業になっている(マイナビ九州エリア「2015年卒就職企業人気ランキング」)。応募者も増えているが、安易に採用数を増やすことはせず、基準を満たす人財がいなければ、たとえ予定数に達していなくても妥協して数合わせをするようなこともない。自社に適した人財を厳選し、理念をベースにしっかりと育成していくスタンスは揺るぎない。

このスタンスは、新規採用の場面だけに限らない。初期に厨房のシェフが辞めてしまった例に表れているように、理念に合わない人がいたときは(仮にその他の部分で優秀でも)「無理やり引き留めない。合ったところを見つけてもらった方がお互いに幸せになれる」と明快に割り切っている。

加えて、営業支援システムをはじめ、勝ち方のノウハウを蓄積し、経験が浅くても成果を出せるような手厚いサポート体制があることは連載第5回(http://president.jp/articles/-/14511)で触れた通りだ。そうした仕組みの上で社員は、理念を実践すれば成果が上がり、成果があがることで利益実感が得られ、より一層理念の実践を心がけるのだ。