「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。

“おっちょこちょいな奴”が生き残る

エステー会長 鈴木 喬氏●1935年、東京都生まれ。59年一橋大学商学部卒業、日本生命保険入社。法人営業部を立ち上げ、年間契約高1兆円を挙げる。85年エステーに出向。98年社長。2007年会長。09年社長復帰、12年に再度会長。

「世にないことをする会社」を標榜する日用雑貨メーカー、エステー。大ヒットした「消臭ポット」「米唐番」、最近では東日本大震災後のCMが印象的な「消臭力」など、日常の中でちょっと気付かぬが、あると嬉しい絶妙なニーズをいくつも掘り起こしてきた。

しかし同社の鈴木喬会長は、この市場で戦う“恐怖心”を口にする。

「製造業というよりお客様満足業。お客様の好き、嫌いで戦っている世界です。今、生きているのが不思議ですね。毎日バクチをやってるようなもの。一寸先は闇ですよ」

人が気付かぬニーズとは、なくても困らないことの裏返しだ。アイデアがすべてで、人がひと目で魅かれなければ終わり。同じ日用雑貨でも、ほかの大手が豊富な資金で開発し、市場投入する生活必需品とは違う。「ニッチのマーケットをつくって、絶えず成長させないと。大手と同じことをやっては勝負になりません」(鈴木氏、以下同)。

形になったアイデアのうち商品化され、発売までこぎつけるのはほんの数%。「その3分の1が売れれば高打率」。まさに死屍累々だ。

「ヤマ勘なんですよ。当たり損ねがホームランになる。狙った通りのホームラン、なんてありえない」

そんな世界でアイデアを出し続け、生き残るにはどんな人となりが必要なのか? 鈴木氏はそれを「おっちょこちょいな奴」と表現する。数々のヒット商品の開発を主導した鈴木氏は、それをみずから体現しているようだ。

「深刻な顔でやる会議が大の苦手でして。いかにサボるかを考えています」

常に笑みを絶やさぬ鈴木氏だが、決してこちらをかついだり、奇を衒ってはいないことが感じ取れる。刻苦勉励のコツコツ型はよろしくないようだ。