勝ちパターンを「見える化」
全国展開のためには進出先の拠点の支配人を任せることのできるリーダー人財が多数必要だ。だが最初から数多くのリーダー人財が揃っているはずはない。一般にウェディング業界は長期勤続が難しくベテランが育ちにくい。挙式が集中するので土日に休めず挙式前の打ち合わせは平日夜間に及ぶという厳しい勤務環境のため、スタッフの大半は2~3年で入れ替わる若手社員だ。したがって多店舗展開を進めるには、経験の浅い人でも支配人として拠点のマネジメントができるようなサポートの仕組みが必要だった。
その仕組みづくりの任を担ったのが営業の菊池旭貢氏(現取締役)である。彼は新卒採用一期生として同社に入社し、金子社長から直接薫陶を受けて鍛えられてきた。菊池氏はすでに立ち上がっていた既存店での営業、オペレーションのプロセスをくまなく洗い出した。どんなプロモーションをするとどのぐらいの見学者の来訪が見込めるか、来訪者の内の何割が成約するか、挙式までに何回ぐらい打ち合わせをし、料理や衣裳にいくらぐらいかけるのか、お客様は何を高く評価し、何に不満を感じるのか等々。IBM出身で中途入社してきたIT専門家と組んで、それらを指標化し見える化できる営業支援システムをつくりあげた。
これによって今どのぐらいの見込み顧客がいるのか、商談中の顧客がそれぞれどんなステイタスにあるのか、担当しているスタッフごとに成約率や顧客からの評価がどう変化しているか等の経営状況がリアルタイムで把握できるようになった。データを分析すれば、そのエリアごとの顧客の特性もわかり、成果を高めるために必要なサポートをタイムリーに行えるようになったのだ。
勝ちパターンが見える化されることによってそれまで培ってきた経営ノウハウを形式知として新規出店の際にも水平展開することができる。また既存エリアと新規エリアの違いも解析でき、現地の支配人の勘に頼ることなく適切な戦略修正が行える。この仕組みは全国展開を推進する上で大きな武器になった。
こうした取り組みによりアイ・ケイ・ケイは、新たな進出先でも成功を収めることができた。これまで出店した全国14拠点すべてにおいて黒字経営を達成している。この成功に理念はどう作用しているのだろうか。確かに、勝ちパターンを見える化し、それを見ながらサポートすることで経験の浅い人でも新規店舗を任せやすくなるという効果はあるだろう。
しかし、ただそれだけで、パートも含め100人規模の拠点スタッフを束ね、高品質サービスを実現するマネジメントのできるリーダーが増えるのだろうか。また頑固な職人気質の料理人たちは、どうしてメニューのカスタマイズを受け入れるようになったのだろうか。そもそも市場全体が成長する中でも安易な拡大志向に走ることなく勝てる立地を厳選する慎重なスタンスに徹することが、なぜできたのだろうか。次回は彼らの経営のベースにある理念との関連を掘り下げてみたい。