競合が真似できない顧客対応

不毛な競争を回避する立地の選定とあわせ、いかに自社の強みを生かし競合に勝てる戦い方をするかを考えた。前述の通り、競合大手のブランド力は手ごわい。施設の建物の洗練されたデザインとバリエーション、一流デザイナーのウエディングドレス、有名シェフのレシピによる高級フレンチフルコース等々、ハードの品質の勝負で優位に立つのは容易ではない。

ただ顧客が求めているのは、それだけではない。ハードの魅力が一定レベル以上にあるのは競争の土俵に上がるための条件ではあるが、もっと大切なのはスタッフの心のこもったサービスにある。アイ・ケイ・ケイは、ハードに加え、卓越したソフト面の魅力を武器にしようと考えた。

九州外で最初に進出した北陸地方は、ハード面の強みよりも自社のソフト面の強みが有効なエリアだった。たとえば料理に対するニーズにも特徴がある。特にホテルや従来型の結婚式場ではなく「我が家でのおもてなし」というコンセプトに共感してハウスウェディングを選ぶ顧客は、料理についても特別のこだわりがあった。列席の来賓の方々へのおもてなしとして、古くから地元の人が慣れ親しんだ郷土料理をふるまいたい、あるいはそれぞれの家で受け継がれてきた家庭料理をメニューに加えたい、といったリクエストが他地域よりも多いのだ。

ただし、こうした要望を実現するのは容易ではない。今でこそメニューのカスタマイズに対応する施設は珍しくないが、10年前は難色を示すほうが普通だった。顧客の好みの家庭の味を再現するというカスタマイズの手間がかかることもあるが、それ以上に厨房をあずかる料理人がそうした要望に応えたがらないことが大きなハードルだった。一般に料理人は職人気質が強く、自分が美味いと思った料理を食べてもらうことが仕事だという自負がある。自分が認めていない料理を作って客に出すなどということはプライドが許さないのだ。特に最高級フレンチフルコースのような自慢の料理を売りにするほど、そのプライドは高くなる。

それに対しアイ・ケイ・ケイの料理人たちは、「自分たちらしいおもてなしをしたい」というお客様の気持ちを第一に考え、メニューのカスタマイズに柔軟に対応することで顧客からの信頼を勝ち得ていった(もちろん同社の料理人にも同様のプライドはあったが、それをいかに乗り越えたのかは次回で詳細に見ていきたい)。

大都市中心の競合にとって優先順位が低い地方都市の隙間エリアで、画一フォーマットが基本の競合には真似のできない料理のカスタマイズなど柔軟な顧客対応を武器に攻めていったのは、先行する大手の強みを逆手にとった巧みな戦略といえよう。