一人ひとりが付加価値を生むための原理原則

「現場」「現実」「現物」を見る三現主義だけでは不十分だとして、付け加えたのが「原理」と「原則」です。会社が利益を出すには、現場で起きている現実や、その結果つくられる製品やサービスが、原理原則に沿って動いていかなければならないという考え方です。

原理とは、一人ひとりが果たすべき責任のことです。原則とは、就業規則や社内ルール、社会的規範などを守りながら仕事をすることです。私たちが原理原則を大切にするのは、一人ひとりが付加価値につながる仕事をするためです。

仕事と作業は違います。作業とは、付加価値にはつながらない働き、つまり無駄な動きです。それまで委託賃加工業に甘んじていた当社がやってきたことは、ほとんどが作業でした。仕事と作業の違いを明確にし、社員一人ひとりに「付加価値につながる仕事をしていますか?」と問いかけるのが、原理原則というわけです。

社内で一歩歩けば、その一歩は利益につながっていなければなりません。何も考えずに漫然と機械を動かすのは、たんなる作業です。機械を動かすスピードは適切か、この方法で不良品の発生を抑えることができるのか、もう少し効率を上げることはできないだろうかと考える。生産性の分析データを作成したなら、データを作成して満足するのではなく、そこから問題を見つけ出し、解決して会社の利益に結びつけてこそ仕事だと言えるのです。

現場の人たちが自分たちの仕事のやり方を見直すのはもちろん、管理者たちが現場に向かって仕事をするようになって、ようやく会社が変わり始めた手ごたえを感じるようになりました。私たちはもう一歩踏み込んで、5ゲン主義を具現化するために、「整流」活動を始めました。これについては次回お話しできればと思います。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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