その裏づけとなるのは、年間9000万人超と世界一の規模となった中国の海外旅行市場だ。中国では、北京オリンピックが開催された08年前後に、インバウンド(外国人の中国旅行)からアウトバウンド(中国人の海外旅行)への市場の逆転が起きた。中国人の海外旅行時代の幕開けは、日本の観光立国政策にも影響を与えてきた。13年、訪日外国人旅行者数は初の1000万人を突破。日本政府観光局(JNTO)によると、昨年上半期も前年同期比26.4%増の626万400人と過去最多だった。背景には円安やASEAN諸国のビザ緩和があるが、13年の反動で大幅回復している訪日中国人による押し上げも大きい。春秋航空が日本路線を加速する背景もここにある。

ところが、ここ数年の外国人旅行者の急増で、日本の外国人客受け入れ態勢の構造問題が露呈し始めている。端的にいえば、観光バスとホテルの客室不足である。昨春「雪の壁」が人気の立山アルペンルートツアーで、予約を申し込みながら日本行きを断念した台湾客が続出した。夏も外客の手配を行う旅行業者の多くは、アジアからの訪日客の受け入れをお断りした。これではいくら日本の魅力を海外にPRしても意味がない。

この構造的な問題を解決するためにはインフラ整備が欠かせないが、短期的には、東京・大阪「ゴールデンルート」に見られる訪問地の偏りや、桜、夏休み、紅葉といった旅行シーズンの集中を分散化させ、団体旅行から個人旅行への転換の促進が求められている。

ひとつの解として期待されるのが、春秋グループの訪日旅行戦略だ。それは、拡充する春秋航空の日本路線と春秋航空日本の国内線を組み合わせた旅行ルートの多様化である。こうして中国客の訪問地の分散化が本当に起こるとすれば、歓迎すべきことである。

春秋航空の上海・茨城線の就航直後、尖閣諸島沖漁船衝突事故が起こり、日中関係は悪化の一途をたどった。ところが、春秋航空は日本路線の運航を東日本大震災後の一時を除き、一度も中止していない。ビジネスが政治に翻弄されがちな中国で、国有企業に比べ立場の弱い民間企業が伸していくには、徹底した顧客目線とブレない姿勢が求められる。JTBとの提携や春秋航空日本の設立も「日中の人材交流を通じて日本のおもてなしや安全基準を取り入れる」(王煒会長)ことが意識されている。日中は補完しあえるのだ。

春秋航空日本の国内線参入によって日本のみならず世界の空をどう変えていくのか注目したい。