――もとは営業部にいたんですけど、「こんな商品があったらいいな」と軽い気持ちで企画を出したらヒット商品になって、商品企画に抜擢されたんです。それまではよかったんですが、その後は鳴かず飛ばず……。期待に応えられないのが辛いんです。

“柳の下に2匹目のドジョウはいない”と言いますからね。アイデアって、思い詰めるほど出なくなるものですよ。一生ヒットが出せない人もいっぱいいるのですから、まずは「僕は一発当てたのだから幸せなほうだ」と思わないと。

――たしかに、そう考えたら少しは気が楽になりますね。

次に、脳を時には「遊ばせる」ことを考えましょう。Googleが「勤務時間の20%は通常の仕事を離れて、自分のやりたいことに取り組んでよい」という独自の勤務制度を導入しているのは有名ですね。これも、脳を遊ばせる工夫の一つです。

世界史をひもといても、歴史に残るアイデアが浮かぶのは、人がリラックスして心身ともに余裕があるときです。たとえばアルキメデス。彼は王様から「この金の冠が本当に金だけでつくられた冠か、それとも混ぜ物をした冠かを調べてほしい」と頼まれ、ああでもない、こうでもないと考え込んで食べ物も喉を通らなくなる。気晴らしに風呂に浸かっていたら突然閃いて「エウレカ」(わかったぞ!)と叫ぶわけです。風呂の中で「アルキメデスの原理」を発見したのです。

――風呂に入っているだけではアイデアは出ないですよね?

もちろんです。頭を使う時間とのメリハリが大切です。

――「部長、ちょっと脳を遊ばせるために風呂へ行ってきます」とは言いづらいんですが。

机を離れるのが難しければ、自席でできる方法もあります。これは以前、どこかの講演会で聞いた話ですが、大阪大学の鷲田清一前総長は、研究に疲れ果ててアイデアが出なくなったとき、まずパソコンを開いて、自分の研究テーマを入力して検索してみるそうです。

――検索は僕だってもちろんやっていますよ。

検索結果の読み方が普通と違うのです。たとえば「マネジメント」と入力すれば、無数のページが表示されますよね。ほとんどの人は、検索結果の上位しか見ない。でも、それを上位からぼんやり拾い読みして、下位のほうに行くと突然、「宇宙」とかマネジメントとまったく関係のないワードが出てくる。そこで、「どうしてこんな言葉が引っかかってきたのだろう」と考えることが、発想の転換になると。あなたも、お菓子の商品名か何かを入れてみたらどうですか。100番目とか200番目に出てきたワードが、思わぬヒントになるかもしれませんよ。

Answer:どうやってリラックスするか、どうやって脳を遊ばせるかを考えましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長、国際業務部長などを経て2013年より現職。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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