――気が付くと毎日残業。プライベートな時間を持つにはどうすればいいでしょうか

僕はこれまで、いろいろな本を読んできましたが、「長時間労働をして生産性が上がった」というレポートは一度も読んだことがありません。長時間労働をすると疲労が蓄積して生産性が下がるのが「常識」です。だから、ダラダラ働くより“集中力を高めて効率的に働く”ことがいい仕事につながりますよ。

――ダラダラ働いてなんかいませんよ!(怒)。こう見えても真面目なんですから!

本当にそうですか? 多くの人が知らないのが、「普通の人間の集中力は、2時間くらいしか続かない」という事実。これも多くの研究で明らかになっています。2時間という集中力の限界を超えて働き続けると、たとえ真面目な顔でPCに向かっていても実は「ダラダラ働く」状態になっているのです。

1日の労働時間で考えると、この「集中できる2時間」×3か4、最大でも×5が上限でしょう。まずは、「長時間働いていい仕事はできない」というファクトを知り、次に自分で集中力を高めて、時間内に終わるよう努力を重ねてみることが大切です。

もちろん、好きで四六時中仕事に打ち込むのは自由ですよ。でもそれは“自発的な営為”であるべきで、職制が強いるようなことがあってはなりません。

――……なるほどわかりました。でも、集中しても仕事が終わらなかったら?

もし「2時間集中ルール」でも仕事がこなせなかったら、たぶんあなたの能力に合わない仕事が割り振られているのでしょう。これはあなたの問題ではなく、管理者の問題なので、上司に率直に相談すべきです。

――「早く帰りたいから仕事を減らしてください」ってなんか言いにくいなあ……

それはそうでしょうね(笑)。でも、なぜ言いにくいんでしょう?

――ヤル気がないと思われるから?

その通り。日本人の労働時間が長い原因は、人の「能力」ではなく、「ヤル気」と、それを測る「残業量」が評価されるシステムにあります。これは歴史的に根が深い問題です。

戦後、日本の終身雇用・年功序列というシステムのもとでは、いい仕事をしたか、といった能力は問われませんでした。たとえば5年経てば係長と決まっていたので、3年目だと他人の倍の仕事をしても、係長にはなれなかった。

能力や実績で人を判断しない“人民公社的”な社会で、人は何で判断されると思いますか? ヤル気、つまり会社へのロイヤルティ(忠誠心)です。「長時間働いている社員は、会社に尽くす優れた社員」ということです。そういう価値観のもとで育ってエラくなった人が、まだ日本の管理者層に多く残っているのは残念ながら事実なのです。 

Answer:大事なのは「ヤル気」よりも「結果」だと心得よ

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長、国際業務部長などを経て2013年より現職。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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