ロングヒット商品が生まれた背景には、「新生アサヒ」を表現したいという強い思いがありました。1987年にスーパードライが発売されるまで、アサヒビールの業界内でのシェアは下降傾向にあり、苦境に立たされていました。当時の状況を打破するために、革新的な商品が求められていたのです。
事実、「何杯でも飲めるビール」「どのような料理にもよく合うビール」として開発されたスーパードライのシャープな味わいは、それまでのビールにはないものでした。のどを通るときは刺激的でありながら、ゴクリと飲み干すとスーッと消えていく――。ここから「DRY」というビール業界初の味を訴求するネーミングが生まれました。今ではビールに当たり前のように使われる「辛口」という表現も、スーパードライから広まったものです。
何より革新的だったのが、パッケージデザインです。これは、今までにないスーパードライの味を伝えるための、消費者との最大の接点でもあります。消費者に手にとってもらうパッケージデザインには、斬新でありながらも共感を呼ぶストーリーが求められます。スーパードライの場合、その象徴はメタリックシルバーでした。
当時、ビールのパッケージのほとんどは白かクリーム色で、シルバーを使うのは前代未聞のことでした。しかし、シルバーは車のボディカラーでも白と並び最も多く使われる普遍的な色。近未来的で疾走感のあるシャープさ、都会的で洗練されたクールさも想起させます。それまでビール消費の中心であった男性の共感を得る“男っぽさ”もあります。ビールらしくなく、大きなインパクトを与えられる斬新さを兼ね備えた色だったのです。シルバーのパッケージを採用することにはアサヒビール社内でも賛否両論でしたが、家庭での缶化率も高まり「瓶から缶」の時代に移行したことも追い風になりました。