松徳硝子は、1922(大正11)年に電球用ガラスの町工場としてスタート。いわゆる電球の「バルブ」部分を職人たちの手により一つひとつ作っていました。しかし、電球製造にもオートメーション化の波が押し寄せ、この分野での職人技術は撤退を余儀なくされた。ガラスで製造できるものは限られていたので、50年代前半には食器製造に移行することになりました。
最初は問屋さんの下請けが専門でした。なかでも、それまでの電球製造で職人たちが培ってきた「ガラスを薄く均一にする技術」により作った薄いグラスが好評で、多くの注文をいただきました。そうして、グラス全体の薄さを均一にするノウハウを蓄積していくなかで、現場の「こんなグラスで酒を飲みたい」という想いも強まっていき、89年に当社のオリジナル商品として誕生したのが「うすはり」だったというわけです。
うすはりシリーズでは、一貫して「引き算の美」を追求しています。余計なものを削ぎ落とすことで、ガラスの良さが生き、そこに注いだ飲み物の味の良さもダイレクトに伝わる。極限まで薄さを追求するには職人の熟練した技術が必要ですが、彼らが高い向上心で研鑽を積み重ね続けているおかげで、年々製品の質は向上し続けています。
しかし、初めから順調だったわけではありません。2004年、当社は危機に陥りました。当時、一番の得意先だった会社からの発注がなくなり、下請け仕事の多くが消えてしまったのです。一時は廃業も考えましたが、ちょうどその頃から、「J-PERIOD」などのデザインショップで取り扱われるようになり、徐々に認知されるようになった。一定の利益を見込めるようになったのは、13年のこと。売り上げも経営危機前の水準まで回復しました。