アフリカはなぜ遠い北朝鮮に発注するのか
アフリカと北朝鮮は地理的に遠い。わざわざ遠方の国に銅像制作を依頼すること自体、不思議に思われる方もいるだろうが、一番の理由は前述のとおり高い技術力と価格の安さにある。昨年3月に契約されたジンバブエのムガベ大統領の銅像2体の価格は500万ドル(日本円で約5億円)だ。原料が銅なのでそれなりにするが、欧米の工房に比べれば3分の2以下に抑えられるメリットがある。
だがそれ以外にも理由はある。かつて西欧列強の植民地政策の餌食となったアフリカは、その後の独立発展において大いに欧米諸国から援助を受けてきたが、心情的には常に西欧社会に反発心を抱いている。その点、アジアは政治的、経済的にアフリカと利害関係がなく、友好的なイメージを抱いている。特に北朝鮮とは反西欧主義(彼らの表現では反帝国主義)という点で共鳴しやすい。どうせ銅像を発注するなら、ヨーロッパよりアジア圏の北朝鮮に依頼したいという心情が働くのだ。
さて、実際に北朝鮮は銅像ビジネスでどれほど外貨を稼いでいるのだろうか。北朝鮮が一切の情報を明らかにしていないので詳細は不明だが、仮に労働者輸出で得られる金額が一人当たり1カ月で2万円に満たないとすれば、銅像2体で5億円という数字は、北朝鮮にとってはかなり大きいはずだ。日本の国家予算の感覚からすれば50億から100億円くらいだろうか。
いま、アフリカは新興市場として世界中から熱い視線を注がれている。日本も今後、多くの企業が進出していくことだろう。だが日本からの援助や投資資金が、アフリカを経由して北朝鮮に流入することだけは避けたいものだ。日本からの支援金で北朝鮮が銅像をつくり、その結果として金王朝の独裁体制を強化させるなど笑い話にもならない。
(三浦愛美=構成 時事通信フォト、AFLO、AP/AFLO=写真)