西アフリカを中心に猛威を振るっているエボラ出血熱。その治療に、富士フイルムの抗インフルエンザ薬「アビガン」が効果を期待できるとして話題になっている。
社名のイメージとのギャップに違和感を覚えた人もいるだろうが、同社は2008年に富山化学工業を買収して、医薬品事業に本格参入していた。フィルム事業で培ってきた厳格な生産管理技術やケミカルのテクノロジーを、富山化学の創薬技術と融合させ、研究開発を続けてきた。その一つが今回、日の目を見た。
富士フイルムはもともと米コダックを目標に設立された、一種の国策企業だった。それが00年代以降、デジタル化の波に押され、フィルムはあっという間に斜陽産業に落ち込んでいった。その中で、先述のケミカル技術を医薬品のほか、化粧品やフラットパネルディスプレー用フィルム、医療機器などに応用し、事業の多角化を図ってきた。それらがいま、次々と花開いている。
医薬品事業にしても、富山化学買収は株式市場からの評価は高くなかった。事実、毎年赤字続きだったが、同社はブレることなく、10年先を見据えた研究開発投資を続けてきた。
新たな事業進出だけでなく、創業事業であるフィルム分野でも、インスタントカメラ「チェキ」が人気再燃している。デジタルカメラに押され、一時は年産10万台まで減ったが、同社は人員こそ削減したものの、「写真文化を継続させる」と撤退はしなかった。その傍らで他社が次々と撤退していき、インスタントカメラ市場はいま世界で同社の“シェア100%”。オリンパスが14年度のデジカメ販売台数として100万台を計画しているが、チェキは350万台。その残存者メリットは絶大だ。
富士フイルムの長期経営戦略の成功は、短期的な利益の極大化を求める欧米的な経営に一石を投じている。
(構成=衣谷 康)