「大前流」老後のお金サバイバル術

結論を言えば、老後の資金は自分で準備するしかない。政治家や役人が牛耳って、政策の失敗を誤魔化すために株を買い込ませたり、外債を抱え込ませる年金ファンドに虎の子を預けるのはやめたほうがいい。地雷を踏んで一発で即死する危険性がある。

国任せにしないで、年金は自衛すべきというのが私からのアドバイスだ。「年金は社会保障」と決めつけて公的年金制度に依存するリスクは、日本の債務状況と人口減時代の進行を考えれば、今後、確実に高まってくる。

アメリカ最大の年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)や、シンガポールの政府投資公社(GIC)、ノルウェーの政府年金基金(グローバル)など、厳正中立な運用で長期にわたって安定したパフォーマンスを上げている年金ファンドが世界にはある。たとえばオンタリオ州などカナダの州政府が持っている年金ファンドは地道な投資研究で高利回りを堅持していて、インセンティブシステムが強すぎるアメリカのファンドよりもはるかに信頼できる。

そうしたファンドに分散して運用を任せられれば一番いいのだが、日本人の年金は預かってもらえない。今のところ、日本で集めた資金をまとめて海外の年金ファンドに預ける商売をしている金融機関もない。ただし、大概のファンドは運用状況を公開しているので、追いかけて投資しようと思えば日本の機関投資家にもできないことはない。

国債暴落→財政破綻→ハイパーインフレのような究極のディザスターが起こった場合、たとえ年金がもらえたとしても意味がない。月額20万円もらえたとしても、円の価値が10分の1に暴落していれば、今の2万円にしかならない。ロシアなどの例から見てもハイパーインフレが起きた国では年金受給者が一番先に地獄を見るのだ。貯金も10分の1になるから、これも役に立たない。

年金や貯金があるから安心、という発想では絶対に生き残れない時代に日本は突入していく。「そうではないもの」に資産をシフトしていかなければならない。たとえばキャッシュを生み出す収益性の高い土地や生活必需品関連の株などは国債が暴落しても、それほど価値が下がらない。それから外貨。本当は何があってもひっくり返らない国の外貨がいいのだが、そんな国はないので、なるべく資源国で財政規律のいい国の通貨を選ぶ。

米ドルとユーロをベースにして、カナダドルや豪ドル、ノルウェーのクローネなど、自分で将来性があると見立てた途上国を含めて5種類ぐらいに配分して外貨預金をするのがベストだ。ゼロから始めるなら、給料の半分を外貨預金に充てるくらいの気持ちでなければ間に合わない。

一方で、自分自身への投資も怠らない。どんな時代でも、どんな場所でも稼げるスキルを身に付けることがハイパーインフレ下における究極のサバイバル術なのである。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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