「人並み以上に『努力』することやで」
学生時代を除けば社長就任までほぼ生まれも育ちも大阪で、骨の髄まで浪花節が染み付く岡藤。若手社員や外部の人間は岡藤をどう見ているのか。
01年に伊藤忠に入社し、現在は繊維カンパニーブランドマーケティング第3部ブランドマーケティング第12課主任を務める緒方大は、岡藤同様、父を早く亡くしている。
「なにかあれば『お母さんはどうや』と気遣っていただいた」
岡藤は若手社員の家族構成をも記憶に入れる。十代後半で病気で2年間休養を余儀なくされ、40代で体調を崩して入院した経験を持つ岡藤ならではの心配りなのだろう。
98年に伊藤忠に入社して退社後は、同時通訳者として活躍し、現在はスタンフォード経営大学院に留学中の関谷英里子は、岡藤が部長時代の部下で緒方の3年先輩に当たる。岡藤は、関谷の活躍を聞きつけて、食事会を開いた。
「現場に率先して向かい、前例に捉われずにムダをそぎ落とす。時代の半歩先を見据え、ビジネスに徹底したこだわりを見せる姿は、当時と同じ」(関谷)
岡藤と長年の親交を持つカバン業界首位であるエース社長の森下宏明は、「ゴルフや食事会など定期的な会合で、ビジネスの要諦を教えて頂いている。経営者として非常に尊敬している」と慕う。官界の重鎮は、こう評する。
「時代を先読みする力と胆力があるだけでなく、経営センスも抜群である」
では、今後の伊藤忠の経営はどうか。
「非資源に注力する」岡藤が社長就任以来一貫して訴え続けてきたことだ。
「資源をやらないわけではない」
岡藤はこう言うが、三菱商事、三井物産のビジネスは、その成り立ちから日本の基幹産業である製鉄、金属、電力と密接な関係にあり、巨額な資源投資をある意味、ヘッジをしている。つまり、そうした足場、いわば「客」を持たない伊藤忠が勝負する場所が、資源ではないと岡藤は冷静に分析している。現場で格闘し、悩み、苦しみ、そして気絶するほど考え抜くことを、岡藤は生涯貫き通している。
「人並み以上に『努力』することやで」
カリスマ岡藤の次の一手は何だろうか。
(文中敬称略)
1949年、大阪府生まれ。大阪府立高津高校卒。74年東京大学経済学部卒業後、同年伊藤忠商事に入社。2002年6月執行役員。04年4月常務執行役員繊維カンパニープレジデント。同年6月常務取締役。06年専務取締役。09年取締役副社長。10年4月より現職。