ごった煮なんですよだから、面白い

伊藤忠商事 住生活・情報カンパニー プレジデント 吉田朋史氏

岡藤ダイナミズムの結果の一つを挙げるとすれば、業界を驚かせた「生活資材」「情報・保険・物流」「建設・金融」が統合して発足させた「住生活・情報カンパニー」だろう。いい方は悪いが「ごった煮」。この部隊を率いるのは、吉田朋史(専務執行役員)である。

「おっしゃる通り、ごった煮なんですよ。だから、面白いんですよ、これが」

他社から、数字合わせとも揶揄されるカンパニーを任された吉田。岡藤が吉田を指名したのも、その強烈な統率力、意志の強さを買ってのことだろう。

吉田は、「いや、いや」と謙遜するが、寄せ集めともなりかねない集団を引っ張っていくには、ときには強引とも思えるような統率力が必要。戦場で最前線に立ち、部下を鼓舞する軍曹のような吉田の馬力なくして現在の同カンパニーの好調さはないだろう。

吉田は自身の交際費の大半を使って、毎月カンパニー社員の誕生会を開いている。初対面の社員を引き合わせては、自分の部署の話題をさせるだけでなく、他の部署の話を聞かせた。各部門の中からは「助け合い大使」を任命することで、違う部門同士で助け合う風土をつくった。ビジネスが成立した案件の中から、吉田自らが「助け合い大賞」を選び、ポケットマネーで副賞を出す。

こうした吉田のリーダーシップが功を奏したのだろう。初めのうちはただ、数字合わせのような意識を持つ社員たちの意識にも、変化が表れ始めた。

「向いている方向、業界は別でもサービスという切り口は一緒。そういうベクトルが一つになってきた」(吉田氏)

吉田のカンパニーに属する物流・保険ビジネス部保険ビジネス第二課課長補佐、河井一心(肩書は取材当時)。タイに駐在経験がある河井だが、アジア、特にタイの後はベトナムにおける保険の仲介、コンサルティング業務を手がけてきた。例えば、タイ、ベトナムで国民の足代わりになっているバイクの市場で、圧倒的なシェアを持つのが「ホンダ」である。そのホンダと組んで「ホンダ友の会」を組織し、イベント情報、グッズの販売などに絡ませてバイク保険をビジネスとしてきた。

97年入社の河井は、伊藤忠の株価が200円を割り、経営不安がささやかれた“伊藤忠危機”を実際に経験した世代である。会社を去っていった多くの同期の背中を見ながら、3000億円という額でも一瞬にして吹き飛んでしまう怖さを知っている。それだけに岡藤体制になってからの会社の変化、変革をより実感しているという。

今年7月、伊藤忠は保険ショップ事業を展開している「ほけんの窓口グループ」の株式24.2%を取得し、保険業界を驚かせた。河井は、今度は「ほけんの窓口」ブランドを自ら育てるため、今年9月から同社に出向中である。