前出の吉田が、ずっとサポートし続けている会社がある。11年に伊藤忠が約850億円を投資して買収した英国タイヤ小売り最大手「クイックフィット」(欧州で1218店舗)である。
同社の社長を務める村井健二は、04年に、伊藤忠が買収した英国タイヤ卸「ステイプルトン」に経営立て直しのために派遣されて以来、在英滞在10年となる業界のプロである。
「卸」と「小売り」の両輪を押さえれば業界で圧倒的な強みを持てる。ステイプルトン買収直後から村井と吉田との間では、この意思統一ができていた。だから吉田自ら渡英し、村井と共に客になりすましてクイックフィットの店舗を訪れて、伊藤忠ブランドに育てることができるかを値踏みをした。
「綺麗ではないです。日本のカーショップなんかを想像したらいけません」
吉田が説明したのは、客商売に値しない同社の有り様だった。客が来ても食事やおしゃべりをやめない。整理整頓ができておらず、床も汚れたまま。
「(まともな店舗に)これならできますね」
村井の一言に、吉田も頷いた。朝来たら、挨拶をする。ユニホームをちゃんと着る。使った道具は片付ける。お客が来たらおしゃべりはやめる。客の前で物を食べてはいけない……、村井は毎日、しつこいくらいに同じことを繰り返し、なかなか直らない社員たちには先手を打って直させた。
村井にとってステイプルトンで身につけたノウハウが生きた。清掃で店舗が奇麗になっていくと、客から感謝されて、社員の態度が徐々に変わっていった。岡藤の指示は、明瞭だった。
「焦ったらあかん。短期の利益よりもまずは、ブランドづくりやで」
14年度3月期の純利益は、前期比2~3倍の51億円になった。