「レスポートサック」は、伊藤忠のブランドビジネスの象徴。

伊藤忠にブランドビジネスを立ち上げ、伊藤忠の看板に仕立て上げた岡藤。現在繊維カンパニーでは約150のブランドを扱う。中身を入れ替えて、財産として保持し続けるものを峻別することが繊維カンパニーの財産である。

岡本にはことのほか、忘れられないブランドがある。トミー・ヒルフィガー(以下、トミー)。同ブランドの経営権を伊藤忠が取得したのは、00年のことだ。トミーの売り上げを約4倍に高め、ブランドを確立させたのが伊藤忠だった。それが08年、トミーのライセンス供給元である「トミーヒルフィガーグループBV社」の強い意向を受けて、伊藤忠が連結対象子会社トミー社の普通株の一部売却、残る普通株については議決権を持たない優先株に転換し、同社に経営権を譲渡することになった。繊維カンパニーの中には、トミーのブランドを育て、売り上げを4倍にした自負もあり、虫のいいライセンス供給元へ怒りの声も聞こえてきていた。

この経営権譲渡の最前線の交渉に当たったのが岡本だ。複雑さを極める交渉でも、岡藤は一貫して岡本に「弱気になるなよ」と声をかけ、極めて細部にわたる指示を与え続けた。

「ええか、契約の文言にこれは入れたらあかんで」

岡藤は、交渉の行方も予言した。

「もうそこまでいったら決裂や。そやけど、相手がここで折れてくる。折れるんは、こういう理由や」

岡藤は交渉相手の心理を読み、交渉の要諦を押さえる。岡藤にそれができるのも場数と行動、なにより客の立場に立って考え抜いた経験があるからだ。

「岡藤社長就任からの4年間は、10年分を凝縮したようなダイナミズムとスピード感に溢れるようなものだ」

と、ある伊藤忠社員は語る。住友商事(以下、住商)を抜いて業界3位を目指すというかけ声も、「それはそうだが、現実には」と他人ごとのようにいう者もいたが、3期続けて住商を上回った今、これを話題にする社員はいない。