メセナ活動は継続することに意義がある
そもそも、トヨタの社会貢献活動は、トヨタループの祖である豊田佐吉の遺訓「豊田綱領」にある「産業報国」「温情友愛」「報恩感謝」の精神がルーツとされる。1990年代に制定された「トヨタ基本理念」では、「国際社会から信頼される企業市民を目指す」「各国・各地域の文化・慣習を尊重し、地域に根差した企業活動を通じて経済・社会の発展に貢献する」と記されている。つまり、売上高25兆7000億円、34万人を抱えるグローバル企業ともなれば、金銭的な寄付行為の支援のほかに、言語も文化も思想も異なるトヨタマンが社会・地球への持続可能な発展への貢献活動などを通じて共に汗をかきながらベクトルを合わせる狙いもあるようだ。
こうしたトヨタの社会貢献活動に限ったことではないが、「メセナ大賞」は1991年に創設されて以来、今年で24回目を迎えたにもかかわらず、これまでの活動状況をメディアなどに大きく取り上げられたケースは少ない。
それには理由もある。「メセナ」とは、芸術文化支援を意味するフランス語で、日本では1990年、当時資生堂やセゾングループなど文化事業に熱心な企業を中心に推進母体の企業メセナ協議会を発足させた。メセナ活動の趣旨は、即効的な販売促進・広告宣伝効果を求めるのではなく、「社会貢献の一環として芸術文化を支援する」としている。従って、企業側にとっては、直ちにイメージアップにつながるような売名的な行為との誤解を避けるためにもメセナ活動に関する積極的なアピールを自主規制しているのも事実。
ただ、企業のメセナ活動は、バブル期を契機に90年代にいったん盛り上がりを見せたものの、その後の不況の長期化やリーマン・ショックの影響などで業績が悪化した企業の中には経費削減で活動を中止せざるを得ないプロジェクトも後を絶たない。
しかしながら、今回の賞を受けた企業の経営者たちは、異口同音に「メセナ活動は継続することに意義がある」と話す。豊田社長も「長い間には経済環境が変化するいろいろな場面があるが、この青少年オーケストラキャンプにしても地道に活動を続けてきたことに価値がある」と強調する。
メセナアワードの選考委員の松岡正剛・編集工学研究所所長によると、「江戸の社会では『稼ぎ半分、つとめ半分』といわれていた。ただ稼いだだけでは半人前、つとめとは故郷や地域社会に貢献することだが、そのつとめをやって一人前」という。
折しも、経済同友会の次期代表幹事に内定した小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長も「企業人は単にもうければよい時代は終わった。今後の日本や世界のことを念頭に置いて社会にどう貢献できるかを考えなければならない」と抱負を語っている。
4半世紀を迎えて大きな岐路に立つ日本の企業メセナ活動を再び活性化させるには、企業の収益ばかりに目を配るのではなく、社会に対して貢献する意識の強い「人徳」のある経営者が増えなければ厳しいだろう。