読み続けると視野が変わる

アメリカという国はそんな幅広さを内包した強い国だと思います。ホイットマンが詩にした健康な国の健全な時代の精神は脈々と流れており、荒んだ精神に侵されたのはごく一部の人々にすぎない。だから間違いなく復活するでしょう。できれば『草の葉』は、英語の原書(『Leaves of Grass―The Death-Bed Edition』)と併読することをおすすめします。

実は今、私は無謀にもバルザックの全集に挑戦しています。90余編に及ぶ長短編小説群を読破しようと思ったのは、彼の小説が「人間喜劇」と総称されるのは、いったい何を意味するのだろう、そんな疑問がずっと心に引っかかっていたからです。ようやく3分の1ほど読みましたが、フランス社会のあらゆる側面を広く、深く描き続ける知的エネルギーには、まったく驚嘆させられます。

バルザックの書はどれも魅力的ですが、あえて最初の1冊を選ぶとするならば『ゴリオ爺さん/上・下』でしょうか。フランス社交界を舞台に強欲とエゴを剥き出しにした、様々な人間模様が描かれています。決して明るい内容ではありませんが、人間の有り様を学ぶには絶好の書です。

私は、若い頃から「本を読む」ことが一番の楽しみで、今でも多くの本を読んでいます。本を読むことが役に立つことかどうかは、ある程度まではわからないものですが、ある一線を越えると急に世界が違って見えるような気がしました。

欧米、特にヨーロッパのビジネスマンに会うと、教養が深く、哲学や歴史をよく学んでいることに驚かされますが、人間観や哲学観、歴史観があってこそ、物事を判断し、リーダーシップを発揮できるのだとも思います。

厳しい経済状況の中だからこそ、前向きな姿勢が重要です。私たち経営者は、将来に光を当てるような発言をもっとしなくてはいけない。多くの人が良書といわれる文学作品にふれることで、現実に立ち向かう勇気と力を得ることができると思います。

(構成=山下 諭 撮影=大杉和広(人物)、小林久井(本))