もし2件の商談が重なってしまったら
もう一つ挙げたフレーズは、「頑張っている人の姿を目に焼きつける」。
答えがないようなことを延々と考えすぎて、迷いが生まれてくるときにどう切り替えるか。そういうときに僕は身近なところにいる「頑張っている人」を目にするようにしている。日本にいた頃で言うと、真夏の炎天下、工事現場で働くおじさん。(中略)自分もああいうカッコ良さを身につけたいと思って、小さなことに悩んでいる場合じゃないとエネルギーがわいてくる(60ページ)。
根本氏にとって、「頑張っている人」はたとえばアスリートだ。
「テレビなら人をテーマにしたドキュメンタリー、本ならスポーツ選手のノンフィクションが好きなんです。結果を残した人がどんな考え方をしているのかに興味があります」
『心を整える。』に書いてあるのは「当たり前のこと」と根本氏はいうが、当たり前のことの裏側には、膨大な労力や、理不尽にも屈せぬ忍耐が隠れている。当たり前のことを当たり前だからと軽視する向きにはそこが見えていないか、もしくは億劫がって逃げる。当たり前のことの遂行には、相応の体力と心の力が求められるのだ。
見かけによらず、実は「突き詰めるタイプ」で、一時はボディビルダーよろしく90キロの鍛え上げた体躯を誇ったという根本氏には、それがしっかり備わっているようだ。
「営業は、精神的なものが求められる仕事だと思うんです。慌てて判断を誤ったりしないために、なるべくポーカーフェースを心がけています」
慌てることなどないように見える根本氏にも、こんな経験がある。店舗で接客中、別のお客様がふらっと立ち寄られた。
「商談をしながら、早く切り上げないと、と思っているとそれが表情に出てしまう。一番避けたいのは両方の案件を逃してしまうことです」