大震災を経験して変わった

もう一つ重要なのが、ミッション(使命)を意識することです。私たちの使命は、簡単にいうと「日本のエネルギー会社として社会に貢献する」こと。日々、仕事のなかで「何のために仕事をするのか」を忘れてはいけない。

一昨年、東日本大震災では、私たちのサプライチェーン(供給網)が壊滅して、石油などをいつものように供給できなくなりました。私たちのミッションが遂行できない、という非常事態に直面したわけです。

そんなとき、和歌山工場から航空自衛隊入間基地にガソリンや軽油、灯油をドラム缶で1000本を運び込みました。また、いち早く仙台の塩釜油槽所を再開して、他の石油元売りにも広く使ってもらえるようにしました。いろいろな問題を多くの社員が一つずつ解決して、実現することができました。

さらに、津波で被害を受けた陸前高田市にコンテナ型の仮設サービスステーションを設置。震災直後、いち早くプロジェクトチームを立ち上げ、中央の省庁や地方の関係省庁、地元自治体と協議を重ねて、前例のない方法で仮設の許可をもらうなどして、完成しました。実は途中で挫折しそうになったときもありました。そんなとき社内から「なぜあきらめるんだ! これをやるのが俺たちの仕事だ」という声とともに、サポーターが続々と現れました。

当時、私は川崎工場長だったのですが、東京電力管内が供給不足に陥ったので、工場長の権限で自家発電装置のフル稼働を決め、余剰分の電力を供給する決断をしました。

以前から、私たちは「意思決定が遅い」と揶揄されることが多かったので、こうした私たちの行動は外部からは「なにか裏があるのではないか」と映ったようです。もちろん、そんな考えはまったくありません。東日本大震災という緊急時に、危機意識、当事者意識を持って、単に言われたことだけではなく、それ以上のことを成し遂げることができました。私たちを動かしたのは、ミッションの遂行、つまり、エネルギーの安定供給のためだったのです。どんなときにでも、このようにミッションを意識して仕事ができる人を、私たちは求めています。

東燃ゼネラル石油代表取締役社長 武藤 潤
1959年、栃木県生まれ。栃木県立宇都宮高校、横浜国立大学工学部卒。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。82年ゼネラル石油(現東燃ゼネラル石油)入社。東燃ゼネラル石油常務を経て、2012年6月より現職。

座右の銘・好きな言葉:自立と自律
座右の書・最近読んだ本:『リーダーシップ論』ジョン・P・コッター
尊敬する経営者・目標とする経営者:いない
私の健康法:ウオーキング

(岡村繁雄=構成 金澤 匠=撮影)
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