大手家電メーカーが軒並み苦戦を強いられている中、ごくごく小規模なメーカーが元気だ。なぜ彼らは少人数で革新的な製品を生み出し、ヒットにつなげることができたのか。その秘密に迫る。

「良い扇風機とは」をとことん追求

バルミューダ創業者 寺尾玄氏
扇風機Green Fanシリーズの最新モデル「Green Fan Japan」35000円(税別)

バルミューダの寺尾玄氏は4年ほど前のある日、芸能事務所の前で出待ちをしていた。目当ての「家電芸人」と呼ばれる芸人の一人が通りかかると、寺尾氏は声をかけた。

「いまもの凄くいい扇風機を持っているんですけど、見たいですか?」

事務所に通された寺尾氏が持参した扇風機のスイッチを押すと、従来の扇風機とはまったく異なる、自然のそよ風のような優しい風が流れた。

「これはいい。テレビで取り上げたら絶対に盛り上がる!」

そして、実際にこの扇風機――「GreenFan」がオンエアされると量販店から次々と連絡が入った。30000円を超える価格設定にもかかわらず「どうしても扱いたい」との依頼が引きもきらなかったのである。

「そのときは人生懸けていたから、そこまでできたんですね。倒産を覚悟していましたから」

寺尾氏はそう振り返る。バルミューダは2003年に設立された、革新的な高級家電を世に送り出しているベンチャーである。PCの周辺機器などを発売していた同社が、扇風機を発売したのは10年。参入のきっかけは、リーマンショックによる倒産危機だった。

地球温暖化という時代の波の上にあり、扇風機は以前から次の開発対象候補だったが、金型代や初期在庫で6000万円の費用がかかる。そのため開発は見送られていたが、倒産の危機を迎え、「どうせ倒れるなら前に倒れよう」と考えたのだ。