念入りな下調べで致命傷を避ける

企業活動にとってもっとも大切なことの一つは、経営者の「決断」である。リターンを求めるためにはいつもリスクが伴うからだ。それゆえ事前の研究・調査の徹底性と慎重さが必要だ。とくに経営資源の限られた中小企業の場合はなおさらである。設備投資、新しい領域への進出……、悩みは尽きない。それが経営者の醍醐味であるといってもよいにしてもだ。

北陸・越前市でビニール袋など特殊包装資材の加工販売をしている豊ファインパックの田中利希也社長は、この春、久しぶりに地元の経営者仲間とゴルフにいき「田中さんが最近は仕事熱心であることがスコアにあらわれている」とからかわれたという。さんざんの出来だった。

この4年ほど田中社長は、海外展開に追われていた。そして今でも追われている。4年前、たまたま筆者の本を読んだ田中さんが大学の研究室に訪ねてきた。マーケットの拡大の難しさ、人材育成のことなど、あれこれ話しているうちに、「今度タイに進出している中小企業の聞き取り調査に行くけど、よかったら一緒にどうぞ」と誘った。「是非」ということで、バンコク郊外の日本から進出した精密切削加工や熱処理の工場を一緒に訪ね、現地での採用や営業の現実の聞き取りをした。

それから2カ月後、ベトナム・ハノイの工場の調査にも同行した。今度は、工場の設備の設計・製作のメーカーと、浄水器の組立工場だった。ここでも現地人の採用や、技術移転(仕事の教え方)、賃金など処遇方法、営業の方法、立地の選定とその価格、などを丁寧に取材した。

その後、田中社長は、今度は自分でタイやフィリピンなどを、公的なセミナーを利用したりしながら歩いてみた。田中さんの会社は社員13人の典型的な中小企業である。このサイズで海外展開を図る事例は少ない。リスクが大きすぎるのだ。しかし田中さんはあえてフィリピンへの進出を決断した。2012年の秋のことだった。