家臣をつぶさにプロファイリング

「官兵衛は『家中間善悪の帳』という記録をいつも携帯して、何か気付くとそこへメモしたのです。何を書いたかといえば、家臣の誰と誰は仲がいい、誰と誰は喧嘩状態で犬猿の仲だ。でも彼と彼は仲直りしたらしい。そんな何百といる家臣たちの人間関係をいわば“プロファイリング”していたのです。例えば、しばらく戦った後、相手の武将と講和をまとめようという段階になって、複数の家臣を相手先に行かせた場合、その家臣同士の関係がよくなければ、先方との交渉もうまくいくはずがありません。だからこそ、善悪の帳が必要となったのでしょうが、私が知る限り、組織のトップ自らがそうやってマメにデータを蓄積しているというのはかなりレアなケースです。官兵衛が几帳面であったことを窺わせてくれます」

官兵衛は「相口、不相口」という言葉も残している。相口とはウマが合う、性に合う間柄であるということ。不相口とは、その逆でウマが合わない関係のことだ。これらは前述の人間関係のよし悪しを把握する重要性を語ったものであると同時に、戒めの言葉でもある。

「人は組織を編成するときに、とかくウマが合う人、現代でいえばイエスマンで固めることがあります。でも、そうした“お友達内閣”は仕事上で私心が入り込みがちで、よくよく注意しなければならない、と官兵衛は黒田家の家老たちに諭しています。馬が合う家臣のことはつい贔屓してしまい、目をつぶることも多い。逆にウマが合わない家臣のことはろくに話も聞かず、ただ遠ざける。それをやっていると最初は居心地よくても、たいてい失敗します。能力よりも、相性だけを重視した組織がうまくいくはずがない。官兵衛はそのこともきちんと承知していて、相性の合わない相手の話でもしっかり耳を傾ける。官兵衛は、それだけ度量の広さがあり、人間というものはどういうものか、強い組織にするにはどうするべきか、を日頃から考えていたということでしょう」(火坂さん)

人遣いの天才! 官兵衛は家臣たちの相性を細かく把握していた
●高橋伊豆に悪しき衆、竹森石見、衣笠因幡
●村田出羽に悪しき衆、堀平右衛門
●井上周防によく候は、堀平右衛門、高橋伊豆
●黒田美作によく候は、林掃部、桐山丹波、菅和泉
●栗山備後によく候は、竹森石見