作家 和田 竜さん
1969年、大阪府生まれ。中学2年まで広島県で過ごす。早稲田大学政治経済学部卒業後、番組制作会社などを経て2003年にオリジナル脚本『忍ぶの城』で城戸賞を受賞。これを小説化した『のぼうの城』で08年に直木賞候補となる。同書は累計200万部(単行本と文庫)を超えるベストセラーとなり、12年映画公開された。著書に『忍びの国』『小太郎の左腕』などがあり、小説第4作となる『村上海賊の娘』で第35回吉川英治文学新人賞、全国の書店員が選ぶ本屋大賞(14年)を受賞。
この数年、『村上海賊の娘』にかかりきりでした。これ以前の作品は、先に脚本として発表したものを小説に書き直していましたが、これは初めて小説の依頼を受けて書いたものです。今回も慣れたやり方にしようと、先に脚本の形で書きました。取材に1年、脚本に書き起こすのに1年、約2年間週刊誌で連載、そのあと半年かけて直して単行本にして、4年半費やしましたね。
村上水軍をテーマにしたのは、広島で育ったので、わりと身近な存在だったからです。作品では飲み食いするシーンが不可欠だったので、当時どんなものを食べていたのかを調べました。醤油はあるにはあったけれど、一般には普及していなくて、刺し身は酢か煎り酒をつけて食べる。煎り酒は鰹節と梅干しを古酒で煮詰めた濃いだし汁のようなもので、今もつくっているところがあるのを知って取り寄せました。味は、納豆についているタレがあるでしょう。あれに似てましたね。
主人公の景(きょう)は能島村上家の当主の娘で20歳。奔放で感情むき出しですが、戦国時代のエピソードなどを読むと戦う女性もいたりするので、政略結婚させられる女性だけじゃないんだなと思って、こういう人物にしたんです。
僕、もともとバトルものが好きなんですよ。そういうのが自然にあるのが戦国時代かな。柄が大きいというか、気持ちの部分ですごくプリミティブで感情の量が多いというか、そういう人たちが跋扈している時代なんです。豪快な人間が好きなので、そういう人物を好んで描いています。次作は今のところ白紙。しばらく休みたいですね。
「喜楽」に初めてきたのは小学生のとき。母の実家が東京だったので、家族でちょくちょく広島から里帰りしてたんです。食べるのはもっぱら「もやし麺」。どこが旨いのか? と聞かれても、オリジナリティーがありすぎて、人に説明しにくい。どことも似てないんですよ。飲み屋なら新宿の「どん底」です。黒澤明監督もお客だったと聞いて、大学生のころからときどき立ち寄っています。
食事は1日2食。自宅で野菜を多めにバランスのとれた食事をとっています。これでも健康にはけっこう気を遣っているんですよ。でもそんなに食にこだわりはないかな。食べ歩きもしませんしね。僕の作品の中で食に関する描写が少ないのは、おそらくそういうことも関係しているんでしょう。