作家 東直己

1956年、北海道札幌市生まれ。北海道大学文学部西洋哲学科中退。92年、『探偵はバーにいる』で作家デビュー。以後、「俺」を探偵役にしたススキノ探偵シリーズ、探偵畝原シリーズ、榊原シリーズなどの作品を発表。2001年、『残光』で第54回日本推理作家協会賞を受賞。2作目の『バーにかかってきた電話』を原作とした映画「探偵はBARにいる」(11年公開)は、初日から2日で興行収入1億7000万円、観客動員数12万人を突破。すぐに続編の製作が決まる大ヒットとなった。現在、続編の「探偵はBARにいる2ススキノ大交差点」が公開中。


 

現在公開中の映画「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」は私の書いた小説が原作です。前作「探偵はBARにいる」と同様、物語の舞台は私がいつも飲んでいるススキノが中心なので、ロケもそこで行われました。学生時代は年に200本は観ていたほどの映画好きですから、初めて映画化されたときは毎日のように撮影を見学に行ったものです。

ところが今回は、以前のように撮影場所と時間を告げるFAXがまったく送られてこない。「これはもう邪魔だから来てくれるな、ということだろうか」と思っていたある日、FAXのコンセントが抜けているのを発見。うちの2匹の猫たちがじゃれあっているうちに抜けてしまったんですね。電源に差し込んだら、その途端に連絡のFAXが大量に出てきました(笑)。

大泉洋さん演じる主人公の「探偵」は、ケラー・オオハタというバーを自分の連絡先にしていて、彼に用のある人はそこに電話をかけてマスターに伝言を頼むことになっています。私自身、20代のころはあるバーに通い詰め、そこが連絡先になっていました。そこのマスターからは酒の飲み方から人とのつきあい方まで、いろいろなことを教わった。学校というか、道場のような場所でした。最近は若い人が年長者と飲まなくなったし、大人が若者の言動に口出しすることも少なくなりましたね。お互いに遠慮があるのかもしれないけれど……。

残念ながらその店はもうありませんが、その流れを汲む正統派のバーが「Kiuchi」です。ここから歩いて数分の距離に妹の経営する居酒屋「小太郎」があるので、そこで〆鯵かなにかを肴に黒糖焼酎を飲んで、次にここに来ることが多いですね。

マスターの木内さんに頼んで特別に作ってもらうのが「サウダージ」というカクテル。いつもこいつを4~5杯飲んで、あとはジンベースのショートカクテルを2~3杯、そのあとはジンリッキーなどロングカクテルをゆっくり味わう。

休肝日? ありません。休肝日を設けるというのは、なんだか卑怯な気がして。「酒の神様」に背中を見せたくないんですよ。9年前に脳溢血で3カ月入院したときも、毎晩飲みに出かけていました。ちゃんと看護師さんに教わった通り、外出届を出して出かけるんです。その届けには理由を書く欄があるんですが、「退院訓練」と書けばいい。ただし、いつもお菓子をお土産にして、看護師詰め所に差し入れしていました。

私は今回の映画で1カ所チラッと出演しているのですが、日ごろの振る舞いのせいか、ベッドでウイスキーをあおる入院患者役を割り当てられています。いつ出てくるか、そこも楽しみに観てみてください。