じっくりつくる時間はない。しかし今まで以上のものを作らねばならなかった。メンバーには、自分たちがやりたいことをやろうと声掛けした。だが、有名男性タレントを立てて撮影に入ろうとした矢先、アクシデントが起きてすべて白紙に。CM発表の日が迫る中、まったく違う発想が生まれた。当時有名ではなかった女性タレントを起用するアイデアだ。通常、3カ月はかかるところを制作会社と直接やり取りして3週間で仕上げ、大ヒットしたのが飯島直子さんのCM。ピンチのときこそ、仕事の本質が見えるものだと思う。

――仕事で大事にしているのは。

【魚谷】情熱をもって仕事をすること。新卒のとき、大阪の営業現場に配属され、社内制度で留学したかった私は理想と現実の違いに大きな挫折感を味わった。ある方から「1年間、本気で仕事をしてみろ」とアドバイスされ、発奮して全力で仕事に取り組んだ。すると成績も上がり、仕事が面白くなった。そんな時、ある得意先に行くと大の阪神ファンの社長が、スポーツ紙を見せてくれた。江川卓との電撃トレードで阪神に来た小林繁が全身全霊で投げる姿。「最近の君にもコレ感じるよ」と言われ、うれしくてまた頑張れた。本社もそれを評価してくれて念願の留学につながった。これが私の原体験。資生堂でも社員全員が情熱をもってわくわく働ける『戦う集団』を作りたい。

資生堂代表取締役執行役員社長 魚谷雅彦
1954年、奈良県生まれ。77年同志社大学文学部卒業、ライオン歯磨(現ライオン)入社。83年米コロンビア大学経営大学院卒業(MBA取得)。94年日本コカ・コーラ取締役上級副社長、2001年社長、06年会長を経て、13年資生堂マーケティング統括顧問。14年6月より代表取締役執行役員社長。

出身高校:大阪星光学院
長く在籍した部門
:マーケティング部門
座右の書(または最近読んだ本)
:小林一三さんの著書
座右の銘
:志は高く、手近のものを片付ける
趣味
:ゴルフ

(大下明文=構成 市来朋久=撮影)
【関連記事】
「慢心への警戒」JR東海新社長 柘植康英
資生堂・次期社長 魚谷雅彦 -老舗企業立て直しへの挑戦
人事部、社長、ヘッドハンターの話題にされるには
「必ず出世する」人生哲学はあるか
権力を握る人は、部下とどんな飲み方をするか