牛丼ファンは値上げを待っていた

【唐仁原】チャレンジといえば、居酒屋「吉呑み」が好調ですね。夜の売り上げが4割増えました。これはどう分析されますか。

【金森】この「吉呑み」は戦略として非常に正しいと思います。これまでの実績として、吉野家の提供が早いことはわかっている。だから、コンビニで買った缶ビールを駅前で飲んじゃってるようなおじさんたちにはピッタリですよ。居酒屋よりもライトに、これまで「日高屋」あたりで飲んでいた人たちを「吉呑み」に呼び込むことができます。ザ・サラリーマンに新たなライフスタイルを提案することになりますね。サラリーマン濃度の高い街で展開していけば、早晩軌道に乗るんじゃないでしょうか。あと、今後もコンスタントに当たる定食を出すこと、マクドナルドの「月見バーガー」のような季節限定の人気商品をつくることができれば、吉野家は安泰です。

【唐仁原】その点、松屋は客層がちょっと違いますよね。

【金森】松屋のターゲットは女性や学生。「普段使い」を意識していると思います。牛丼でもいいけど、定食でもいい人が行く店。だから、非常にソツのない「食べてみてもいいな」と思わせる定食を出しますよね。理にかなっていると思います。

「吉野家が味噌汁を改善しないのは低原価のためだろう」(唐仁原氏)

【唐仁原】ちょっと高い「プレミアム牛めし」。私はほぼ毎日食べてます。

【金森】実は牛丼の値段も、「お客から求められていないこだわり」のひとつ。今、吉野家の牛丼並盛は300円、松屋は290円、すき家は270円ですけど、安すぎると思いませんか? 牛丼は2000年に松屋が並盛の値段を390円から290円に下げて以降、ずっと横並びで低価格競争をしているんです。でも、390円になったからって、牛丼を食べなくなる人はいませんよ。それなのに、何を怖がっているんだか、牛丼業界は値段を下げ続けている。その結果、人件費にしわ寄せがいってお客にまずい牛丼を食べさせているなら本末転倒。「プレミアム牛めし」は売れて当然なんです。たった90円高いだけでおいしいものが食べられるなら、消費者は絶対にそっちを選びます。松屋のこの成功を見たから、吉野家もきっと同じことをしますよ。