【可能性1】 相手はいたって合理的だ。彼の目に世界がどのように映っているのかをあなたが理解していないだけだ
交渉の最も基本的なルールの1つは、相手が合理的であると想定することだ。新しい交渉には必ず心を白紙にして臨もう。人生経験の違いが、奇妙な行動に見えるものにつながることもある。だから、結論に飛びつかず、相手の目にはその交渉がどのように映っているのかを想像してみよう。
もしかしたら彼は、交渉の進め方に関する会社の新しいガイドラインから外れるのを恐れているのかもしれない。「外部」との交渉を進めている間に「社内」の交渉をまとめることができず、痛い目にあった経験があるのかもしれない。こうした懸念に対処するにはどうすればよいのだろう。まず、あなたの新しい交渉相手がどんな問題に頭を悩ませているのかを直接尋ねてみよう。ジョーが社内で自分の身を守るための案をあなたから提案してもいい。
第2に、新しいやり方が非生産的だとわかったら交渉を中止する権利を保留したうえで、相手の要求に応じることが考えられる。新しいやり方が非生産的に感じられても、そのやり方でやってみなくてはいけないこともある。そうすれば交渉がなかなか前に進まないため、最低でも、よりよいアプローチを議論する共通の基盤ができる。
ジョーのオフィスで、1対1で話し合うという要求に応じるとしよう。
あなた われわれには明らかに共通の利益がある。御社はグローバル市場で競争力を維持するためにわが社の部品を必要としている。御社が現在の発注量を維持もしくは拡大されるかぎり、わが社には引き続きそれを提供していく用意がある。ご承知のとおり、お望みのものをお望みのときに納品するためには、われわれは生産システムを頻繁に調整する必要がある。発注量を維持もしくは拡大を前提として5年以上の購入契約を結んでいただければ、毎年わずかばかりのインフレ調整を行うだけで現在の価格を維持できるだろう。
ジョー とんでもない話だ。現在の単価からかなり値下げしてもらえないかぎり、御社と取引することに興味はない。それに、発注量はわが社が自由に増減できなくてはいけない。また、違約金なしでいつでも契約を破棄できる権利もほしい。さらに、期日どおりに納品できなければ、相当額の違約金を払うと保証していただきたい。
あなた ちょっと待ってもらいたい。わが社のコントロールの及ばない理由のために納品が遅れた場合でも違約金を払う? 単価を下げる? 発注量は随時、増減する? どこからそんな考えが出てくるのか。わが社の部品を御社ほど安く買っている会社はないはずだ。発注量は少なくとも安定していることが必要だ。でなければ、われわれはきめ細かいサービスを提供できない。
ジョー わが社との取引を続けたいなら、御社は価格を引き下げ、なおかつ納期のリスクをなくす方法を見つけなくてはいけない。
あなた わが社と御社は10年近く協力してきた。この問題はなんとか解決できるはずだ。あなたの前任者と私はいつも自分のカードをすべて見せ合っていた。いったい何が起きているのか。
ジョー あなたとスーがうまくいっていたのは知っているが、時代は変わった。価格は下げてもらう。リスクを減らす。柔軟性を維持する。それがルールだ。合意するのか、しないのか。