困難に挑んできた経営者たちが見出した「束ねるための秘伝」を紹介する。認識・関係・環境・人格の4つのアプローチに分けて、 それぞれの方法を検討してみよう。
無理に融合せず長所を利用し合う -石川祝男
バンダイとナムコの社員を無理矢理に融合させようとは思わない。ゲームは生活必需品ではない。作り手にも遊び心と心の余裕が問われる。「こんな遊びをやりたい、作りたい」と思える環境が、いいゲームを作る絶対条件といえるだろう。混成チームを結成し、「このメンバーで情報共有して新しいゲームを作りなさい」と押し付けてはいけないのだ。
そもそもバンダイとナムコでは社風や強みが大きく異なる。元バンダイのゲーム開発は一人の社員が年間5~7本のゲームの開発・販売を担当し、「いかに効率よく売っていくか」に長けた少数精鋭のプロデューサー集団だ。ロケットに例えるなら、一人ひとりに小型エンジンが付いていて、大枠が決まれば自分で点火して飛んでいく。
一方で、技術者を社内に抱えている元ナムコのゲーム開発は、売り方よりもゲームの中身にこだわってじっくり作る。一人が担当するのは多くて年に2本。社員一人ひとりはロケットのさまざまなパーツで、その力を結集することで高性能で強力なロケットとなるイメージだ。
異なる両者を無理に同じにしようとして、「売り方にも中身にもこだわれ」と命令したら、それぞれの長所を半分にした仕事しかできないだろう。私は、お互いの長所を利用し合う雰囲気が自然発生的に生まれてくるのを辛抱強く待った。
(07年1月29日号当時・社長構成=大宮冬洋)
奈良雅弘氏が分析・解説
同じ「束ねる」でも、個々人の認識や感情にはそれほど触れず、良好な環境をつくることで束ねていく「環境アプローチ」というべき方法も存在する。
石川氏の場合、述べられているのは「合併してもいたずらに社員を融合させない」ということのみであるが、それもまた、立派な「環境アプローチ」である。異なる開発論理を持つ集団を無理矢理くっつけるのでなく、それぞれが独自の持ち味を十分に発揮できるように心がけること。現場目線できちんと状況を認識し、社員が主体的に経営活動に参加できる環境をつくり出そうとしているのである。
そういった企業に共通するのは「社員の心地よさ」だ。社員を伸び伸びとさせれば、社員のほうから束ねられてくれる――。そんな発想があるように思う。
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。