困難に挑んできた経営者たちが見出した「束ねるための秘伝」を紹介する。認識・関係・環境・人格の4つのアプローチに分けて、 それぞれの方法を検討してみよう。

なぜ大法螺を吹き続けるのか -永守重信

日本電産社長 永守重信氏

私は25歳のサラリーマン時代に結婚したが、当時から「世界的な企業をつくる!」と公言していた。これからつくる会社の組織予定図を描いた大学ノートを持ち歩き、デートのとき家内にそれを見せて「あなたはほんとにいい男を選んだ。僕は今後これだけの企業をつくるから、あなたの人生はすばらしいことになるよ」と熱弁を振るったこともある。職業訓練大学校の後輩で現在副社長を任せている小部博志君にも、そのノートを見せてはさんざん法螺(ほら)を吹いた。3畳1間の彼の下宿で「こういう会社をつくるが、おまえが来てくれたら副社長だ」とやるのである。もちろん当時は一介のサラリーマンであり客観的に見れば何の裏づけもない。しかし家内も小部君も私の話を信じてついてきてくれた。

28歳で日本電産を創業してからも、節々でこの種の大法螺を吹いてきた。月商20万円のときに「目標は年商10億円」と語り、さらにはニューヨーク証券取引所に上場する、京都一高い本社ビルを建てる、といった法螺を吹き、それをことごとく実現してきた。いうなれば当社の成長を先導してきたのは、このような大法螺なのである。

残念なことに、最近は大法螺吹きが見当たらなくなった。ということは、夢を語れる人も減っているということだ。

大法螺はそれだけ見るとまったく実現可能性を持たないが、実は目の前の目標である「夢」を積み重ねた先に見えてくるものだ。つまり大法螺を語る前に夢がなければならない。そして夢を実現するには日々の努力が肝要だ。結局、大法螺に近づくためには、一歩一歩カメのように歩むほかないのである。

社員を集めて大法螺を吹いても、説得力がなければ「ああ、また社長、できもしないことを言ってるな」と思われる。せっかく大目標を打ち上げても聞く者の心に届かないのでは意味がない。