「0勝0敗よりも15勝15敗のほうがいい」。これも、ある瞬間のひらめきを書き留めた言葉である。

私の教育は「叱って育てる」スタイル。部下にメールを送るときも、褒めるよりも叱るケースが圧倒的に多い。だが、叱られるのは、その人が積極的にチャレンジしている証拠である。社内では「社長に叱られる人ほど偉い」というイメージができあがっている。

このことを端的に表したのが「0勝0敗よりも15勝15敗のほうがいい」という言葉だ。わかりやすい一言に凝縮することで印象が強烈になり、それによって私の考えがグループ社員10万人に浸透するのである。

当社の稟議書にはハンコの横に、私の字で「嫌々OK」「まあまあOK」という書きつけがある。ただOKを出すのではない。「ほんまはノーにしたいところだが、日にちも近づいているし、もう嫌々OKせざるをえない。しかし次回はこれでは通りません」。

ここまで書くこともある。すると起案者は「一応は社長からOKをもらえたが、嫌々だということは自分の努力が足りないのか」と反省する。つまり、書き込みのある稟議書には教育効果もあるのだ。他方、私にとっては、その件を決裁したときの決意のほどを記録しておく“カルテ”でもある。この患者はいまどこに痛みがあるか、そこへ何を処方したかが書いてある。何年か経ったときに見返してみると、自分がどういう思いで渦中にいたのかがわかるのだ。

「叱るのは口で、褒めるのは手紙で」というのが私の口癖だ。叱られる理由をわかってほしいので、あえて手紙の形にする場合もあるが、できれば「怒り」を紙のうえに定着させるのは避けたいと思う。「バカヤロー」とやるのは、口でいうから後に響かなくていいのである。

(08年6月2日号当時・社長構成=面澤淳市)