「この数字には原発事故被害への補償費用は含まれていません。もし、それも算入すれば、原発の発電コストは莫大な額になります」(大島氏)

しかし、政府は依然としてエネルギー政策の柱から原発を外そうとはせず、原発推進路線を真っ向から批判する新聞もない。一部の学者は相変わらずその必要性を強弁し、すでに立地された自治体のなかには、住民が危険にさらされることを承知で、なおも存続と誘致の意向を示す首長さえいる。

紙幅の都合で詳述できないが、政府の最深部で実権を握り政治家を操るのは官僚である。原発の維持・推進は、巨額の予算確保と省益、天下り先の安定をもたらす。また、新聞やテレビ、一部の雑誌などメディア各社には、年間で莫大な広告料が投じられる。仲介するのはもちろん大手広告代理店だ。一部の学者には多額の研究費や名誉職が準備され、個人的に籠絡されたメディア関係者にも同様の“待遇”が用意されている。立地した自治体には、悪名高き「電源三法」の巨額交付金が流れ込む。交付金目当ての自治体がさらなる交付金を得るために原発の増設を要求し、それが悪循環となって原発の地域密集を促してきた。

電力会社はこれらすべてのニーズを賄い続ける必要がある。鍵を握るのはやはり電力会社だ。原発推進には官僚と政治家の権力発動が最も重大ではあるが、多くの金は電力会社を経由して四方に流れ出す。いくらあっても足りないだろう。だが、電力会社自身は原発の推進を止めようとはしない。

それは、電力会社が長年の間、途方もない「金」を生み出す制度に守られ続けてきたからである。

(PANA、AP/AFLO=写真)