「実は、そもそもどちらが著作者であるかはそこまで重要ではありません。仮に佐村河内氏が著作者でなくても、金銭の授受によって著作権は新垣氏から佐村河内氏に譲渡されていると考えられます。佐村河内氏が著作権を持っているなら、レコード会社と佐村河内氏が契約しても、著作権法上の問題はほとんど発生しません」
著作権の譲渡が有効になされているとして、一般に指摘されてはいないが、むしろ新垣氏による違法行為が成立する余地もある。
「一般的にゴーストライター契約を結んだ場合、その存在を公表しないという合意がなされていると考えられます。新垣氏がゴーストライターだと自ら名乗り出たのは、民法上の債務不履行。それにより損害を被ったとして、佐村河内氏が新垣氏に損害賠償請求することは、理論上ありえます」
新垣氏は騒動になる前に記者会見を開き、自ら共犯者だと告白した。その潔い姿勢を見て世間から擁護の声があがったが、2人の関係に限っていえば、被害者は佐村河内氏のほうというわけだ。
ただし、佐村河内氏が新垣氏を訴えても損害賠償が判決で認められるとはかぎらない。
「新垣氏側の告発は社会的に意味のあるものであり、結果的に損害賠償債務を認める結論はおさまりが悪い。結局、佐村河内氏が得た利益は虚構によるもので、損害を受けたとしても法律上保護に値しないというところに落ち着くのではないでしょうか」
いまのところ訴訟の動きは具体化していない。このまま泥沼化しないことを祈るばかりだ。
(図版作成=ライヴ・アート)